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オリジナル水辺ノ世界の作品を掲載

「晴子と成院」6

2015年07月07日 | T.B.2000年

「晴子……来てないか?」

そう家を尋ねて来た大樹に
成院は首を横に振る。

「いや」
「そう―――だよな。
 すまなかった」

成院は去りかけた大樹を呼び止める。

「晴子、いないのか?」

大樹は答えないが
つまりはそういう事だろう。

「こんな時間に」

成院は外を見回す。
日はとうの昔に沈んでいる。

「いや、大丈夫だ。
 俺が言いすぎたんだ。
 しばらくすれば戻ってくるだろう」
「こんな時間だぞ、
 もし西や砂一族がうろついていれば」

両方とも、東一族と敵対する一族だ。
特に砂一族は
東一族の女子供を攫っていく。

それは大樹も分かっている事だ。
だから、焦っている。

「西一族はここまでは来ないだろう。
 砂一族も……」

しばらく口ごもっていたが
大丈夫、と大樹は成院の家を後にする。

「本当に済まない。
 気にしないでくれ」

大樹が去った後、
成院も家を後にする。

「気にするなという方が無理だ」

成院はひたすらまっすぐに進む。
ここだろうと核心はあるが
そうでなければいいのにと思う場所に。

こんな時に、晴子が行く所。
決まっている。

「―――成院」

東一族の墓地。
戒院の墓の前。

そこで立ち尽くしていた晴子は、成院に気がつく。

「どうしたの」
「どうしたのじゃない。
 大樹兄さんが探していたぞ」

晴子は言われて初めて辺りを見回す。
日が暮れていることに気がつき

「そうか、帰らなきゃ」

ぽつり、と呟く。

「探しに来てくれたんだ、
 ありがとう。成院」

名残惜しそうに墓前を離れた晴子に
並んで成院は歩く。
いつもよりもゆっくりと。

「大丈夫、一人で帰れるよ」
「いや、送るよ。
 何かあったら俺の夢見が悪い」
「……ごめんね」

「まあ、晴子には余計な心配だったかもな
 伝説の大将のお孫様だし」

「ひどい
 爺様は凄いけど、もうっ」

成院ったら、と晴子が少し笑う。
それを見て、
少し落ち着いたな、と成院は思う。

「……何があった?」

大樹が言っていた、
言い過ぎた、と。

「戒院の事か?」

促す様に成院が問いかけると
晴子は頷く。

「カイが、酷いやつだって
 浮ついた噂ばっかりあるやつだって」
「否定はしないけど」
「……だって」

晴子の声が弱々しくなって
言い間違えた、と成院は慌てる。

「あ、悪い意味じゃなくて
 あいつはちゃんと晴子の事、真面目にだな」

「分かってる、
 そうじゃないの」

「カイが、杏子姉様に
 次期宗主の許嫁様に声をかけていたのは
 貴方のため、だったんだ」
「……え」
「成院が、杏子姉様のこと好きなの知ってたから」

今はもう居ない。
成院が好きだった人。

「でも、成院は
 杏子姉様の事、もう恋人がいる人だからって
 諦めてたでしょう」

あの時から色々な事が変わってしまった。
晴子の恋人も
成院の憧れていた人も。
みんな流行病で居なくなってしまった。

「それでも、少しでも成院が話せたら
 そのきっかけになれたらって」

残ったのは、晴子と成院。

「カイはそんな理由、誰にも気がつかれないと思ってたけど
 私は知って……って、え、あ」

晴子は
隣で顔を真っ赤にしている成院に気がつく。

「ば……れてたんだ」

「ご、ごめん成院。
 あの、その、貴方が、その杏子姉様の事を好きなのは
 大体みんなが知って、それでカイが」
「あーあーあー、
 その話はいいから、いいから!!!!」

もうやだ、消えたいと
珍しく成院が弱音を吐く。

それが何だかおかしくて
晴子は思わず笑ってしまう。

「貴方と話せて良かった。成院。
 なんだか悔しかったんだ。
 兄様達が、村のみんながカイの事誤解したままなのが」

そうか、と成院は言う。


「ありがとう晴子」


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