TOBA-BLOG 別館

TOBA作品のための別館
オリジナル水辺ノ世界の作品を掲載

「晴子と成院」7

2015年07月14日 | T.B.2000年

もうすっかり暗くなってしまった村の道を
晴子と成院は進む。

「成院、あのね」

晴子の言葉を
成院は静かに聞いている。

「緑子も兄様も言っていた
 私が、あなたを
 カイの代わりに見ていないかって」
「同じ顔だからな」
「そうね
 でも、いくら双子でも間違えはしない。
 代わりにはしない」

ずっと、見てきたもの、と
そこまで言えずに晴子は立ち止まる。

「そう、思っていたんだけど」

もうすぐ家に着いてしまう。
その前にどうしても話しておきたかった。

「貴方の中にカイを探してしまう。
 同じ所を見つけて、カイを思い出してしまう。
 そういうのを、
 代わりにしてるって言うんだろうね」

だから成院は言ったのだ
会わない方が良い、と。

「俺はさ」

黙って聞いていた成院が言う。

「晴子が俺の中に
 戒院を探してしまうのが・・・少し嬉しい」
「ーーー嬉しいの?」
「嬉しい、と思う時もあるんだ、
 なんでだろう」

訳分かんないよな、と、成院は言う。

「俺はこれでも結構焦っているんだ。
 あいつが居た証拠を残さなきゃ、
 でなきゃ、俺が生き残った意味がない」

「・・・生き残っただなんて
 変な言い方は止めて」

なんて事だろう、と晴子は思う。
成院がそんな風に考えていたとは。

「成院、ねぇ。
 あなたがカイの代わりとして生きる
 そんな必要はないのよ」

戒院が死んで悲しい事と
成院が生きている事は
全く別の話だ。

でも、成院にとっては
同じなのだろう。

「まぁ、でも
 医師になろうと思ったのは
 俺のわがままだよ」

それは、本当。
そう、成院は言う。

「俺が『戒院の夢』を追うのはおかしい事だ
 だけど俺がそうしたい思った。
 もう、誰かが死ぬのはこりごりだ」

代わりなんて
大げさな言い方をしたな、と
成院は言う。

「こんなの誰にも言うつもりは
 無かったのだけど
 晴子は聞き上手だからな」

「成院のうそつき」

大げさではない
彼は本心でそう思っている。
そんな晴子の思いが伝わったのか
成院は苦笑いを浮かべる。

「俺達がしている事は
 多分どちらもまっとうじゃない、 
 そう言われる事だ」

晴子が成院の中に
戒院を探してしまう事。

成院がそんな晴子に
安心している事。

「でも、俺達には、今
 そうするしかない
 そうやって、でも、
 少しずつあいつの存在が薄れていくんだと思うよ」

良い意味でね、と成院は言う。

「そういう日が来るのかしら」

戒院の事を忘れてしまう日が。

「分からない。
 俺だって今は
 いつかそうなるって信じてるだけ」

「そうだね」

晴子が頷いたのを見て
成院は先を促す。

「さ、帰ろう。
 大樹兄さんが砂漠の向こうまで
 探しにいってしまう」

二人はまた歩み始める。

「晴子、
 少し気持ちの整理がついたら
 今度は俺からお茶に誘うよ」

成院からの思いがけない誘いに
晴子は再び頷く。

「その時は
 焼き菓子を準備して待ってる」

「あぁ、晴子の好きな
 茶葉を持っていくよ」



T.B.2000
彼の居ない東一族の村にて

最新の画像もっと見る

コメントを投稿

ブログ作成者から承認されるまでコメントは反映されません。