夕方。
琴葉は、広場に向かう。
そこには、大勢の西一族が集まっている。
皆、狩りから戻って来たのだ。
狩りの道具を片付けている者。
肉を捌いている者。
ただ、談笑している者。
ほとんどが、琴葉には気付かない。
琴葉はその面々を見て、ひとつの班に近付く。
「ねえ」
琴葉が声をかけると、ひとりが顔を上げる。
前村長の孫。
「何だよ」
「ちょっと分けてほしい」
「分けるだって?」
前村長の孫は、目を細める。
「何を?」
「それ」
琴葉は、指を差す。
そこには、この班が獲ってきた、いくつかの獲物。
前村長の孫は、舌打ちする。
「狩りに行ってないのに、何を云う」
さらに、
「図々しいな、お前」
横にいた紅葉が顔を上げ、止める。
「やめなよ」
「だって、こいつ、いつもふらふらしてる」
「やめなって」
「いつも、何をやってんだ? 医者の勉強か?」
琴葉は目を細める。
「村人には、狩りの獲物は公平に配られるでしょ」
紅葉が、琴葉に云う。
「全部の班が戻ってきたら獲物を分けるから、ちょっと待ってて」
「おいおい。公平だって?」
前村長の孫が、せせら笑う。
「狩りに行かないやつに、不公平じゃないか」
琴葉が云う。
「……ちょっとだけ分けてよ」
「何だよ、うるさいな」
前村長の孫は声を上げ
「おい!」
班の、もうひとりを呼ぶ。
そのひとりが、顔を上げる。
琴葉は、はっとして息をのむ。
そこに
黒髪の彼、がいる。
「お前の分けてやれよ」
黒髪の彼は、琴葉を見る。
目が合う。
「紅葉」
「何?」
紅葉が返事をする。
彼は立ち上がり、琴葉に近付く。
紅葉は首を傾げる。
そう、
呼んだのは、紅葉ではない。
琴葉のことだ。
彼は、獲物を差し出す。
琴葉は、彼を見る。
そして、彼が持つ、獲物を見る。
紅葉の目の前で、紅葉と呼ばれ、気まずい。
琴葉は、獲物を受け取る。
すぐに、背を向け、歩き出す。
走り去りたい。
でも、走れない。
「お前、お礼云えないのか!」
後ろで、前村長の孫が、叫んでいる。
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