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「西一族と涼」6

2014年05月09日 | T.B.2019年

「おい! どういう状況だ」

 今回の狩りの進行役が、戻ってきた四人を見つけ、駆け寄る。
 狩りに出た班の中で、唯一戻っていなかった班。

 丸一日、雨が降ったため、四人は、それからの下山となった。

 みんな血だらけだったが、
 怪我をしているのは、ひとりだけのようだ。

「悠也が怪我してるの!」
 先頭を歩いてきた、紅葉が云う。
 誠治が、悠也の肩をとり、歩いている。

 悠也の意識はある。

「獲物にやられたのか?」
「ああ」
「悠也、痛みは?」
「大丈夫だ」
 進行役が怪我を見る。
 悠也には、応急処置が施されている。
「お前らがやったのか?」
 紅葉が、涼を見る。
「涼が……」
「そうか」
 進行役は、誠治を見る。
「とにかく、病院へ向かえ」
「わかった」
 誠治は頷き、後ろにいた涼を、一瞥する。
 病院へと、向かう。

 狩りの進行役は、涼と紅葉を見る。

「何があったんだ?」
 紅葉が答える。
「獲物……、熊二匹に当たってしまったの」
「本当か!」
「でも、二匹とも仕留めてある」
「それは……」
 進行役は、ため息をつき、ちらりと涼を見る。
「無茶したな……」

 涼は、目を合わせない。

「詳しくは、あとで聞こう。怪我人も出たからな」
 進行役が云う。
「ふたりとも、一度、家に戻って指示を待て」
「はい」
「仕留めた獲物も、あとで、運びに出るだろうから」
 紅葉は頷き、涼を見る。

 涼は、歩き出す。
 やがて、姿が見えなくなる。

 広場に、紅葉と進行役が、残される。

 進行役が、紅葉を見る。
 云う。
「あいつが、何かしたのか?」
「え?」
「悠也の怪我の原因だよ」
 紅葉は首を振る。
「……違う、けど」
「そうか」
「涼は、」
「まあ、でも」
 進行役は息を吐く。
「あいつが、運悪くも同じ班だったんだ」
 紅葉は、その言葉に、進行役を見る。
「どういうこと?」
「あることないこと、云われるんだよ」
「涼が?」

 進行役は答えない。

 紅葉は、眉をひそめる。

「そんなの、……ひどい」
「仕方ない」
「涼は、私たちを、……助けてくれたのに」
 進行役は首を振る。
「あいつは、同じ西一族でも、違う存在だ。だろ?」
「それは、……」

「西一族ではあり得ない黒髪」

 進行役が云う。

「それだけの理由で、十分なんだ」


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