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「辰樹と天樹」28

2016年12月16日 | T.B.2017年

「おい、何してる!」

 補佐の声。

 辰樹は、目を開く。

 そこに、砂一族が倒れている。

「一歩間違えれば死んでいたぞ!」
「いや、……」

 辰樹は肩で息をする。

 足下を見る。

 無数の針。
 先端には、砂一族の毒が塗ってあるのだろう。

 とっさに張った紋章術の防御壁で、身を守ることは出来た。
 そして

「お前、防御壁と攻撃の陣を使ったのか」
「……そうか」

 辰樹は自身で納得する。
 無意識に、ふたつの紋章術を使ったらしい。

 身体が重く感じる。

「大したもんだ」

 辰樹は補佐を見る。
 まだ、呼吸が整わない。

「辰樹、無理はするなよ」

 補佐は、鳥を呼ぶ。
 鳥に云う。

「医師様を呼んでこい」

 砂一族の手当てか。
 生死の確認か。

 それに答えるように、鳥が舞う。

「俺がここで砂を見ているから、お前も病院へ向かえ」

 辰樹は、目で頷く。

「大丈夫か?」
「ああ、」
「強力な紋章術のあとは気を付けろよ」
「判ってる」

 辰樹は補佐に任せ、歩き出す。

 その場を離れ

 病院とは違う方向へ。

 あの

 東一族の少女が倒れていた場所へ。


 辰樹は、地面を見る。


 血の痕。

 ここに、天樹の彼女が倒れていた。
 けれども、そこには誰もいない。

 辰樹は、病院へ向かう。
 中に入る。

 人を探す。

 この砂一族の件で、多くの怪我人が出たわけではないのだろう。

 病院はいつも通り。
 慌ただしいわけではない。

 医師が、辰樹に気付く。

「どうした、辰樹」
「人を探してて……」
「人?」

 辰樹は病院の中を、見てまわる。

 天樹は、いない。

「誰を探しているんだ?」

 再度、医師が声をかけてくる。

「お前は大丈夫だったのか?」
「俺は、何ともない」
「で、誰を探している?」

「天樹……」

「天樹?」

 ああ、と、医師は頷く。
 誰のことか理解する。

「ここには、運ばれてきていないな」
「なら、」
「誰かが、ほかで処置しているのかもしれん」
「砂一族の話だと、」
「何の話かは知らないが、砂の話は当てにならないぞ」

「……だよな」

「心配するな」
「判ってる」

 辰樹は、病院を出る。



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