小夜子は上を見て、天院を見る。
けれども、天院と視線は合わない。
「天院様」
天院も、上を見る。
小夜子が訊く。
「何があるの?」
「ほら。木の上に、花が」
「花?」
宗主の屋敷の庭は、きれいに手入れされている。
花が多い。
ふたりの目の前に立つ高木も、花を付けている。
「ごめんなさい」
小夜子が云う。
「何?」
「見えなくて」
と、小夜子が急に笑い出す。
「小夜子、なぜ笑うの?」
天院は首を傾げる。
「ひょっとして、天院様は、花、好きなの?」
少し考えて、天院は答える。
「嫌いじゃないよ」
天院は、小夜子をのぞき込む。
「おかしい?」
「ううん。不思議だなと思って」
「……お詫びに」
天院が云う。
「花をとるよ」
「え?」
小夜子は驚く。
「あんなに高いのに、届かないよ」
かなりの高木。
「届かない?」
天院は首を傾げる。
自分にとっては、たいした高さではない。
「無理はしない方が」
「無理じゃない」
天院が云う。
「跳べば」
そう云って、天院は、地面を蹴る。
その高さは、高い。
天院は枝を掴み、そのまま木を登る。
花を掴む。
ふたつ、とると、木を飛び降りる。
「天院様!」
小夜子は、目を見開く。
「怪我をしたら大変!」
小夜子は、自分がどれぐらいの力を持っているか、知らないのだろうけれど。
「しないよ」
天院は、小夜子に、花をひとつ渡す。
「……ありがとう」
小夜子は、花を受け取る。
白い、花。
「いいにおい」
「うん」
「もうひとつは?」
小夜子がふと訊く。
「お母様に?」
「え?」
天院が訊き返す。
「なんでそう思うの?」
「天院様が花を好きなら、天院様のお母様もそうだろな、て」
「さあ?」
「また、……はぐらかすのね」
「怒る?」
「怒らないよ」
「小夜子、怒ってるみたい」
「怒らないけど、」
小夜子は、受け取った花を見る。
「でも……」
「何?」
「ううん」
小夜子は首を振る。
その様子に、天院は小夜子をのぞき込む。
「小夜子、何?」
小夜子が呟く。
「次は、……私だけ、とか」
天院が訊く。
「何が?」
「花、を……」
「ああ」
天院は頷く。
「いいよ?」
そう云ってくれるんだ、小夜子。
小夜子は、花を握りしめ、はにかんでいる。
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FOR「小夜子と天院」8