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「天院と小夜子」6

2014年08月22日 | T.B.2016年

 小夜子は上を見て、天院を見る。
 けれども、天院と視線は合わない。

「天院様」

 天院も、上を見る。

 小夜子が訊く。
「何があるの?」

「ほら。木の上に、花が」
「花?」

 宗主の屋敷の庭は、きれいに手入れされている。
 花が多い。
 ふたりの目の前に立つ高木も、花を付けている。

「ごめんなさい」
 小夜子が云う。
「何?」
「見えなくて」

 と、小夜子が急に笑い出す。

「小夜子、なぜ笑うの?」
 天院は首を傾げる。
「ひょっとして、天院様は、花、好きなの?」

 少し考えて、天院は答える。
「嫌いじゃないよ」
 天院は、小夜子をのぞき込む。
「おかしい?」
「ううん。不思議だなと思って」

「……お詫びに」

 天院が云う。

「花をとるよ」

「え?」
 小夜子は驚く。
「あんなに高いのに、届かないよ」

 かなりの高木。

「届かない?」
 天院は首を傾げる。

 自分にとっては、たいした高さではない。

「無理はしない方が」
「無理じゃない」
 天院が云う。
「跳べば」

 そう云って、天院は、地面を蹴る。

 その高さは、高い。

 天院は枝を掴み、そのまま木を登る。
 花を掴む。
 ふたつ、とると、木を飛び降りる。

「天院様!」
 小夜子は、目を見開く。
「怪我をしたら大変!」
 小夜子は、自分がどれぐらいの力を持っているか、知らないのだろうけれど。
「しないよ」

 天院は、小夜子に、花をひとつ渡す。

「……ありがとう」

 小夜子は、花を受け取る。
 白い、花。

「いいにおい」
「うん」
「もうひとつは?」
 小夜子がふと訊く。
「お母様に?」
「え?」

 天院が訊き返す。

「なんでそう思うの?」
「天院様が花を好きなら、天院様のお母様もそうだろな、て」

「さあ?」

「また、……はぐらかすのね」

「怒る?」
「怒らないよ」
「小夜子、怒ってるみたい」

「怒らないけど、」

 小夜子は、受け取った花を見る。

「でも……」
「何?」
「ううん」
 小夜子は首を振る。
 その様子に、天院は小夜子をのぞき込む。
「小夜子、何?」

 小夜子が呟く。

「次は、……私だけ、とか」

 天院が訊く。

「何が?」
「花、を……」
「ああ」
 天院は頷く。
「いいよ?」

 そう云ってくれるんだ、小夜子。

 小夜子は、花を握りしめ、はにかんでいる。



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