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「ヨツバとカイ」4

2014年08月19日 | T.B.2000年

「あなた、子供が出来にくい体みたいなの」

西一族の医師が言う。

「……へぇ」

あぁ、違う。
いつもの自分ならこんな気の抜けた返事はしない。
しっかりしないと、
きちんとしないと、と
そんな事ばかりをヨツバは考える。

「ねぇ、ヨツバ」

医師は言う。

「そういう人は沢山いるわ。
 いずれ子供が欲しいと思ったら治療はいくつもあるし
 夫婦で過ごすだけでいいって人も居る」

そんな事を考えたことも無かった。
まだ結婚だってしていない、
子供の話はもっと先の事だと思っていた。

「で、も」

考えてしまう。

自分でも驚くほど
たった一瞬の間に色々と考えてしまう。

血統ではなく、
村人からの推薦で村長が決まる西一族の村で
サトルは次代の村長として期待されている。

狩りの腕は立つし、器量も良い。
なにより面倒見のよい性格がまとめ役に向いている。

いずれ彼は村人の期待通り村長になるだろう。

「サトルはそんな人じゃ無いでしょう。
 一度きちんと話してみるべきだわ」

医師がヨツバに声をかける。

分かっている。
この事をサトルに話しても、彼は気にするなというだろう。
そう言うに決まっている。

だから言えない。

耐えられないかもしれないのは、
きっと、ヨツバの方だ。


「なぁ、ヨツバ」


カイの言葉にはっとする。

見渡すと北一族の村。

ヨツバは敵対する一族である東一族のカイと
お茶を飲んでいたのだった。

この状況も何だか嘘みたいなものだ、と
ヨツバはおかしくなって少し気が軽くなる。

「ごめん、聞いてなかったわ、何?」

気分転換をしに来たのに、
この前の事ばかり考えていてはいけない。

「恋人と別れるのなら、さ」

カイが笑う。


「俺にしない?」


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