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「高子と彼」9

2019年05月07日 | T.B.2002年

「高子、急患だ」

そう言って、
村長の補佐役が病院を訪ねてくる。

彼が来るという事は
特別な患者と言うこと。

特別な役割を負っている者。

諜報員。

「こんな時間に、
 人手が足りないわよ」

どうしたって言うの、と
高子は補佐役に問いかける。

「潜入調査だったんだが
 相手が悪かったようだ」
「また、そんな危険な事をさせて」
「村のためだ」

バタバタ、と
高子は白衣を纏う。

西一族には敵対している一族が2つ。
東一族と山一族。
そして、隣り合う北一族と南一族は
威力ある魔法の使い手。

内情を探る事で
村長は色々な予防線を張っている。

「前から思っているのだけど、
 彼らの命をもっと尊重してちょうだい」

どれだけ、危険な役目か。
本当に彼らが必要なのか高子は首を捻る。

「分かっていると思うが
 他の医者にはただの怪我人だと伝えろ」
「ええ、仰せの通りに!!」

村人は彼らの存在を知らない。

危険な役割と言うことで
いざというときの対応が求められるので
医師である高子は1人、
彼らの存在を知らされている。

だから初期の処置は高子が行う。
それから、やっと
医師見習いの稔を呼ぶことが出来る。

ただの狩りのけが人として。

「で、誰がどうしたの?」
「東に潜入した者で」
「東、……悟なの!?」

東一族と言うことは
魔法の裂傷も考えられる。

薬棚の在庫を見ながら高子は言う。

「いや、悟ではない」

「東の担当は悟でしょう?」

「それが、担当替えがあってな」
「東一族は余程諜報になれた者じゃないと」

まさか、新人に担当させたの?と
驚く高子に、補佐役は言う。

「腕はある者なんだが、
 言っただろう、相手が悪かったんだ」
「とりあえず早く診るから
 連れてきて頂戴!!」

そういう患者は
夜と言えど人目が着かない裏口からになる。
補佐役と一緒に高子は患者を出迎える。

「………ほら、しっかり」

悟に支えられて、
患者が入ってくる。

支えられて歩けるようならば
思っていたよりは酷くない。

ベッドに横にして
傷口を見る。

顔を切ったのだろうか、
顔は血が良く出るから、と
患者の髪をかき上げて、高子は息を呑む。

「………」

とても、見知った顔。

けれど

まさかこんな所で
見ることになるとは。

「湶?」
「ああ、高子、か?」

いつも通りの調子で
ただ、掠れた声で彼は言う。

「ちょっと、しくじったんだ」

どういう事、と
振り返る高子に、補佐役は言う。

そうだった、お前には言ってなかったな、と。

「こいつも、諜報員だ」


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