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「西一族と巧」8

2019年05月03日 | T.B.1996年

「と、云うわけで」

 向が、ふたりの前に立つ。

「またこの班です!」

「わぁああ、短かったなぁ、別の班!」
「お前、他の班にくっついていろよ」
「何で私がよ! 向こそ!!」
「俺は巧と一緒!」
「巧は私よ!!」

 恒例のやりとりを、巧は遠い目で見る。

 しばらく、いろんな者と狩りの班を組んだが、またこの班に戻った。
 何度目か。

「いいか、華!」

 向が云う。

「今日はくれぐれも、花を持ち帰るとか云わないように!」
「それは私の勝手でしょう!」
「狩りの班は共同作業!」
「みんなはひとりのために!」
「ひとりはみんなのために、だ!!」

「ちょっと……。もう、行かないか?」

 このまま放置していたら、日が暮れてしまう。

 獲物もずいぶんと太ったものが増えてきた。
 狩りの成果を出さなければ、評価が下がる。

 3人は歩き出す。

 村を出て、山へ。

 狩り場に着くまでは、多少は気を緩めていてもいい。
 山道を歩きながら、おしゃべりは続く。

「ねぇ巧。私ね、花屋になりたいんだ」
「だろうね」
「主に花屋。たまに、狩り」

 華は、花が好きなのだ。
 花屋の道を選べるなら、それが合っている。

「俺は、狩りで成果を出して、狩りで生計を立てる」
「それしか取り得ないもんねー」
「だから、俺の邪魔をするなよ、華!」
「そんなの知らなーい」

「でもさ」

 巧が云う。

「花とは云え、ずっと付いていないと枯れてしまうだろう?」
 巧は首を傾げる。
「狩りをやっている暇なんてあるのか?」

「えぇえ??」

 華も首を傾げる。

 そう云えば、村の花屋店主も、花屋しかやっていない。
 狩りには出ていない。

「狩りに出ないと駄目だぞー」
「そうなの?」
「一族内での立場!」
「ふーん」

 華が云う。

「じゃあ、狩りを主にやる人と、結婚しようかなー」
「俺は嫌だぞ!」
「向とは云っていない!!」
「そこは断るなよ!!」
「どっちよ! 嫌って云ったじゃない!!」

 ふたりは、ぎゃあぎゃあ騒ぐ。

 その様子を見ながら、巧が呟く。

「……みんな、なんだかんだ、先のことを考えているな」

 向と華は、巧を見る。

「え、何?」
「どうした、巧!」

「だから、将来のことを」

「巧ってば!」
「考えてるってふわっとだぞ、ふわっと!」

「悟も稔も耀も……」

「何その3人」
「心配するの早すぎやしないか?」

 向が笑う。

 そして

「巧はさ」

 向が思いついたように、云う。

「ちょーほーいん、とか、いいんじゃないか!」
「諜報」
「員……」

 白い目で、巧と華は見る。

「諜報員って……」
「戦いの腕前がないと出来ん!」
「戦いの腕前とかないし」
「巧は狩りが上手いだろう!」
「狩りと戦いは、等しくないぞ」

「てか、何よ、その仕事!」
 華が身を乗り出す。
「諜報員って何!!」

「華は知らんだろう!」

 向は胸を張る。

「西一族を守るために、他一族の動向を探る、かっこいい仕事だ!」

 とは云え、

 そのような仕事は実在しない。
 と、云われている。

 あるんだか、ないんだか。
 噂で耳にする程度。

「いったん、落ち着くか」

 巧はふたりをなだめる。
 もうすぐ狩り場。

「何だよ、気になる話!」
「私も気になる~」

「なら」

 巧が云う。

「みんなで北一族の村に行かないか?」




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