「と、云うわけで」
向が、ふたりの前に立つ。
「またこの班です!」
「わぁああ、短かったなぁ、別の班!」
「お前、他の班にくっついていろよ」
「何で私がよ! 向こそ!!」
「俺は巧と一緒!」
「巧は私よ!!」
恒例のやりとりを、巧は遠い目で見る。
しばらく、いろんな者と狩りの班を組んだが、またこの班に戻った。
何度目か。
「いいか、華!」
向が云う。
「今日はくれぐれも、花を持ち帰るとか云わないように!」
「それは私の勝手でしょう!」
「狩りの班は共同作業!」
「みんなはひとりのために!」
「ひとりはみんなのために、だ!!」
「ちょっと……。もう、行かないか?」
このまま放置していたら、日が暮れてしまう。
獲物もずいぶんと太ったものが増えてきた。
狩りの成果を出さなければ、評価が下がる。
3人は歩き出す。
村を出て、山へ。
狩り場に着くまでは、多少は気を緩めていてもいい。
山道を歩きながら、おしゃべりは続く。
「ねぇ巧。私ね、花屋になりたいんだ」
「だろうね」
「主に花屋。たまに、狩り」
華は、花が好きなのだ。
花屋の道を選べるなら、それが合っている。
「俺は、狩りで成果を出して、狩りで生計を立てる」
「それしか取り得ないもんねー」
「だから、俺の邪魔をするなよ、華!」
「そんなの知らなーい」
「でもさ」
巧が云う。
「花とは云え、ずっと付いていないと枯れてしまうだろう?」
巧は首を傾げる。
「狩りをやっている暇なんてあるのか?」
「えぇえ??」
華も首を傾げる。
そう云えば、村の花屋店主も、花屋しかやっていない。
狩りには出ていない。
「狩りに出ないと駄目だぞー」
「そうなの?」
「一族内での立場!」
「ふーん」
華が云う。
「じゃあ、狩りを主にやる人と、結婚しようかなー」
「俺は嫌だぞ!」
「向とは云っていない!!」
「そこは断るなよ!!」
「どっちよ! 嫌って云ったじゃない!!」
ふたりは、ぎゃあぎゃあ騒ぐ。
その様子を見ながら、巧が呟く。
「……みんな、なんだかんだ、先のことを考えているな」
向と華は、巧を見る。
「え、何?」
「どうした、巧!」
「だから、将来のことを」
「巧ってば!」
「考えてるってふわっとだぞ、ふわっと!」
「悟も稔も耀も……」
「何その3人」
「心配するの早すぎやしないか?」
向が笑う。
そして
「巧はさ」
向が思いついたように、云う。
「ちょーほーいん、とか、いいんじゃないか!」
「諜報」
「員……」
白い目で、巧と華は見る。
「諜報員って……」
「戦いの腕前がないと出来ん!」
「戦いの腕前とかないし」
「巧は狩りが上手いだろう!」
「狩りと戦いは、等しくないぞ」
「てか、何よ、その仕事!」
華が身を乗り出す。
「諜報員って何!!」
「華は知らんだろう!」
向は胸を張る。
「西一族を守るために、他一族の動向を探る、かっこいい仕事だ!」
とは云え、
そのような仕事は実在しない。
と、云われている。
あるんだか、ないんだか。
噂で耳にする程度。
「いったん、落ち着くか」
巧はふたりをなだめる。
もうすぐ狩り場。
「何だよ、気になる話!」
「私も気になる~」
「なら」
巧が云う。
「みんなで北一族の村に行かないか?」
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