媛さんは、高位である。(たぶん)
東一族の高位家系は、墓場の中心部に、その墓石を構える。
歴代の宗主をはじめ、高位の名まえがその墓石に刻まれている。
当然、媛さんの母親も高位であるはずなのである。
なのに
こんな墓場の端に埋められ
しかも
東一族がかたどる墓石とは違う、ただの石?
さらに
その墓石には、名まえが刻まれていない。
刻まれているのは、数字。
つまり、亡くなった母親の生年である。
(1985 ― 2017年)
「名まえが書いてないんだもの、そりゃあ判らないわよね」
「……媛さん」
「何?」
「媛さんは、母親が亡くなったとき、葬儀に立ち会ってないのか?」
「それが、覚えてないんだよねぇ」
彼女が首を傾げる。
「でも、父親は立ち会ったはずだろう??」
「ううん」
「ううん?」
「父様は死んだことさえ知らなかったんだって」
「何と!!」
「とにかく、誰も知らなかったのよ」
「なぜに、そう云う状態に……」
「だから、知らない人が埋めてくれたの」
「知らない人、すげぇ」
媛さんの家族、いったいどうなっている。
母親が死んだことも知らない。
埋められた場所も判らない。
「いいのよ」
彼女は、簡単に掃除をする。
「どんな形であれ、母様のお墓なんだから」
「そう、か」
彼は、彼女を手伝う。
墓石に水を掛け、花を供える。
「よかった。母様、きれいになったねぇ」
彼女は頷く。
「あれ?」
彼は気付く。
彼女の母親の墓の横に、もうひとつ石があることを。
「これもお墓だよ」
彼女は、その墓石にも水を掛ける。
花が供えてある。
「媛さんが?」
「ううん。この花は違うよ」
「じゃあ、誰が、」
「母様のお墓を教えてくれた人じゃないかな」
つまり、知らない人。
「…………」
彼はその墓を見る。
その墓には、
……名まえが刻まれている。
「兄様?」
「…………」
「どうかした?」
「…………」
「ひょっとして、知っている人?」
「あ、いや……どうかな?」
彼女は、彼を見る。
墓石の生年を見る。
「そうね。兄様と同い年の人よね」
彼女は、何かを取り出す。
「と、云うことで」
「突然!?」
「おやつの時間!!」
「おまっ、もしや、それは!!」
取り出したのは包み。
そして、それを開くと、
「南一族の、餡で餅をくるんだと云う菓子!!」
「ふふ、この時期のお墓参りはこれを食べるのよ!!」
正確には、供えるのである。
「従姉さんが持たせてくれたのー」
「それは、食べなければならないな!」
「もちろん!!」
ふたりは、もう一度墓に手を合わせ、
お供えものを、おいしくいただきました。
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