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「辰樹と媛さん」7

2019年10月25日 | T.B.2019年


 媛さんは、高位である。(たぶん)

 東一族の高位家系は、墓場の中心部に、その墓石を構える。
 歴代の宗主をはじめ、高位の名まえがその墓石に刻まれている。

 当然、媛さんの母親も高位であるはずなのである。

 なのに

 こんな墓場の端に埋められ

 しかも

 東一族がかたどる墓石とは違う、ただの石?

 さらに

 その墓石には、名まえが刻まれていない。
 刻まれているのは、数字。
 つまり、亡くなった母親の生年である。

(1985 ― 2017年)

「名まえが書いてないんだもの、そりゃあ判らないわよね」
「……媛さん」
「何?」
「媛さんは、母親が亡くなったとき、葬儀に立ち会ってないのか?」
「それが、覚えてないんだよねぇ」

 彼女が首を傾げる。

「でも、父親は立ち会ったはずだろう??」
「ううん」
「ううん?」
「父様は死んだことさえ知らなかったんだって」
「何と!!」
「とにかく、誰も知らなかったのよ」
「なぜに、そう云う状態に……」
「だから、知らない人が埋めてくれたの」
「知らない人、すげぇ」

 媛さんの家族、いったいどうなっている。

 母親が死んだことも知らない。
 埋められた場所も判らない。

「いいのよ」

 彼女は、簡単に掃除をする。

「どんな形であれ、母様のお墓なんだから」
「そう、か」

 彼は、彼女を手伝う。
 墓石に水を掛け、花を供える。

「よかった。母様、きれいになったねぇ」

 彼女は頷く。

「あれ?」

 彼は気付く。
 彼女の母親の墓の横に、もうひとつ石があることを。

「これもお墓だよ」

 彼女は、その墓石にも水を掛ける。
 花が供えてある。

「媛さんが?」
「ううん。この花は違うよ」
「じゃあ、誰が、」
「母様のお墓を教えてくれた人じゃないかな」

 つまり、知らない人。

「…………」

 彼はその墓を見る。

 その墓には、

 ……名まえが刻まれている。

「兄様?」
「…………」
「どうかした?」
「…………」
「ひょっとして、知っている人?」

「あ、いや……どうかな?」

 彼女は、彼を見る。
 墓石の生年を見る。

「そうね。兄様と同い年の人よね」

 彼女は、何かを取り出す。

「と、云うことで」
「突然!?」
「おやつの時間!!」
「おまっ、もしや、それは!!」

 取り出したのは包み。
 そして、それを開くと、

「南一族の、餡で餅をくるんだと云う菓子!!」
「ふふ、この時期のお墓参りはこれを食べるのよ!!」

 正確には、供えるのである。

「従姉さんが持たせてくれたのー」
「それは、食べなければならないな!」
「もちろん!!」

 ふたりは、もう一度墓に手を合わせ、
 お供えものを、おいしくいただきました。





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