彼女が山を下り
西一族の村へと戻ってから
数日後。
ここ最近の雨が嘘のように。
空は晴れ渡っている。
「…………」
「…………」
「……何よ」
琴葉は手を止め、顔を上げる。
「何か用?」
「あ、えっと」
紅葉がいる。
「えー、っと」
「黒髪ならいないけど」
「あ。うん」
紅葉はあたりを見る。
彼を、探しているのか。
琴葉は云う。
「村長のところか、狩りじゃない?」
「それ、ずいぶんと違わない?」
琴葉は息を吐く。
「うちら、適当だから」
「何それ」
「干渉しない程度に」
「ふーん」
「生きていて、たまに帰ればいっかなって」
紅葉は首を傾げる。
琴葉は、ちらりと紅葉を見る。
が
やがて、自分の作業を再開する。
「…………」
「…………」
「まだ、何かある?」
琴葉の言葉に、紅葉は、再度あたりを見回す。
「あの、」
「何?」
「……大丈夫だったの?」
「大丈夫? 何が?」
「この前の……」
「山に行ったときのこと?」
「あのときは……、ごめんなさい」
「ああ」
琴葉は頷く。
「別に、気にしてないと思うよ」
「…………」
「平気じゃない?」
「……そっか」
「本当に謝る気があるんなら、あいつに云ってよ」
「……うん」
それでも、紅葉は落ち着かない。
琴葉は構わず、作業を続ける。
「それは?」
琴葉は紅葉の手元を見る。
「…………」
「ねえ、琴葉」
「何?」
「面倒くさがらないでよ」
琴葉は、水に沈めていた手を出す。
その手には、何かの植物。
「葉っぱ?」
「洗ってるの」
「何で?」
「何でって、……薬になるから」
「へえ」
紅葉が云う。
「先生の手伝い?」
琴葉は答えない。
「何だ」
「……何だって、何よ」
「琴葉もちゃんとやってるんじゃない」
「どう云う意味?」
琴葉は、植物を洗う。
それが終わると、葉を広げる。
乾かす。
「それで終わり?」
「乾くのを待つのよ」
作業はまだ続く。
琴葉は立ち上がる。
「私はそう決めたの」
琴葉は云う。
「狩りは出来ないし、勉強は出来ないし」
「琴葉、」
それでも、
ちょっとだけ、出来ることをやる、と
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