「おいおいおい、辰樹!」
陸院は、思わず辰樹を呼び止める。
「お。何だ、陸院」
ひとり歩いていた辰樹は、振り返る。
その手には、かご。
かごには、山ほどの野菜。
今は、収穫の時期なのだ。
「ずいぶんと、おい、が、多かったな!」
辰樹は笑う。
「てか、呼び捨てにするなよ!」
顔を赤くして、陸院は、辰樹が持つものを指差す。
「何だよ、それ」
「あー、これ?」
辰樹は、野菜を見る。
「未央子に頼まれて」
「未央子に!」
陸院は声を上げる。
「あの女、最近頻繁に屋敷を出入りするよな!」
「この屋敷に、仕入れしてるからだろ」
「未央子め。会うたび会うたび、いちゃもん付けやがって」
「いちゃもんじゃなくて、自らの行いを振り返れ!」
「で。何で、お前がそれを運んでくるんだよ!」
「頼まれたから」
辰樹は、面倒を感じて歩き出す。
「いやいやいや!」
待てよ、と、陸院は辰樹を止める。
「その野菜貸せ!」
「何だ。陸院が運んでくれるのか?」
陸院は、野菜のかごを奪い取る。
「これ、目の悪い女が洗うんだよ」
「ふーん」
「また、野菜に虫を入れてやろう」
「虫? てか、また?」
「前に試したことがある」
「お前、ばかだろ!」
辰樹はあきれる。
「そのうち、罰が当たるぞ」
「罰だって?」
陸院は笑う。
「俺に、罰が当たるかよ」
「それ返せよ。俺が未央子に怒られる」
「持って行ってやるって」
「なら、虫はやめろ!」
陸院は、再度笑う。
薄笑い。
「虫に気付いたときの、反応を見たいだろ?」
「……それって」
辰樹は、気味悪そうに云う。
でも、声量大きめで。
「お前、その子を好きなのか!」
「辰樹、声がでかい!」
陸院は、慌てる。
「勘違いするな!」
「ふーん、そうなのか」
「だ、か、ら、そうじゃなくて!」
「ふーん。へぇー」
「俺は、あいつの反応を見たいだけ!」
「あいつ、て? その子の?」
「違う。あいつ、だよ。あー、楽しみだなぁ」
陸院は、ひとりで云う。
「怒るんだろうなぁ。そしたら、父さんに云い付けてやろうっと」
「……何だ。つまり、その子には男がいるのか」
「ちょっ」
「お前、手を出すのか! すごいな!」
「少しは単語を選べよ、辰樹!」
辰樹に負けじと、陸院の声もでかい。
「お前、そんなことより、さっさと務めに行けよ!」
「行くって」
「今日、砂漠だろ!」
「わーかってるって!」
辰樹は仕方なく、反対方向へ歩き出す。
念押しして。
「お前、虫はやめとけよ!」
まあ、結局は、その子を好きなんだろう、と。
辰樹は、今の話を口外しないことにした。
一応。
宗主ご子息の想いだと、思って。
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