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「辰樹と天樹」10

2015年09月18日 | T.B.2016年

「おいおいおい、辰樹!」

 陸院は、思わず辰樹を呼び止める。

「お。何だ、陸院」

 ひとり歩いていた辰樹は、振り返る。

 その手には、かご。
 かごには、山ほどの野菜。

 今は、収穫の時期なのだ。

「ずいぶんと、おい、が、多かったな!」

 辰樹は笑う。

「てか、呼び捨てにするなよ!」

 顔を赤くして、陸院は、辰樹が持つものを指差す。
「何だよ、それ」
「あー、これ?」
 辰樹は、野菜を見る。
「未央子に頼まれて」
「未央子に!」

 陸院は声を上げる。

「あの女、最近頻繁に屋敷を出入りするよな!」
「この屋敷に、仕入れしてるからだろ」
「未央子め。会うたび会うたび、いちゃもん付けやがって」
「いちゃもんじゃなくて、自らの行いを振り返れ!」
「で。何で、お前がそれを運んでくるんだよ!」
「頼まれたから」

 辰樹は、面倒を感じて歩き出す。

「いやいやいや!」

 待てよ、と、陸院は辰樹を止める。

「その野菜貸せ!」
「何だ。陸院が運んでくれるのか?」

 陸院は、野菜のかごを奪い取る。

「これ、目の悪い女が洗うんだよ」
「ふーん」
「また、野菜に虫を入れてやろう」
「虫? てか、また?」
「前に試したことがある」
「お前、ばかだろ!」

 辰樹はあきれる。

「そのうち、罰が当たるぞ」
「罰だって?」

 陸院は笑う。

「俺に、罰が当たるかよ」
「それ返せよ。俺が未央子に怒られる」
「持って行ってやるって」
「なら、虫はやめろ!」

 陸院は、再度笑う。
 薄笑い。

「虫に気付いたときの、反応を見たいだろ?」
「……それって」

 辰樹は、気味悪そうに云う。
 でも、声量大きめで。

「お前、その子を好きなのか!」
「辰樹、声がでかい!」

 陸院は、慌てる。

「勘違いするな!」
「ふーん、そうなのか」
「だ、か、ら、そうじゃなくて!」
「ふーん。へぇー」
「俺は、あいつの反応を見たいだけ!」
「あいつ、て? その子の?」
「違う。あいつ、だよ。あー、楽しみだなぁ」

 陸院は、ひとりで云う。

「怒るんだろうなぁ。そしたら、父さんに云い付けてやろうっと」

「……何だ。つまり、その子には男がいるのか」
「ちょっ」
「お前、手を出すのか! すごいな!」
「少しは単語を選べよ、辰樹!」

 辰樹に負けじと、陸院の声もでかい。

「お前、そんなことより、さっさと務めに行けよ!」
「行くって」
「今日、砂漠だろ!」
「わーかってるって!」

 辰樹は仕方なく、反対方向へ歩き出す。
 念押しして。

「お前、虫はやめとけよ!」

 まあ、結局は、その子を好きなんだろう、と。
 辰樹は、今の話を口外しないことにした。

 一応。

 宗主ご子息の想いだと、思って。



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