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「山一族と規子」5

2015年09月15日 | T.B.1962年

「兄様!!」

妹に呼び止められ青年は歩みを止める。

「ミズホじゃないか、
 どうしたこんな所まで」

青年の2人居る妹の1人は
村の中心に位置する家に嫁いでいる。
実家である青年の家は村のはずれだ。

「どういう事なの。
 西嫁様を誘い出したって
 噂になっているわよ!!」

西嫁様とは、規子の
山一族での俗称だ。

「ははぁ」

話が早い、と
青年はいっそ感心する。
お孫様、か。
おおかた自分の知らないうちに
嫁が男と出かけていた、とでも伝えたのだろう。

「やっぱり誤解なんでしょう??」
「迷惑をかけるな」
「私がどうこう、じゃなくて
 巻き込まれているのは兄様なのだから
 のんきに構えないで!!」

誤解を解くこと、
それを聞かれたらきちんと説明すること、と
妹は念押しをする。

「ねぇ、西嫁様は確かに
 あの人はつらい立場と思うけど
 姉様と重ねちゃダメよ」

青年のもう1人の妹の事を言う。
山一族から西一族へ嫁いだミヤ家の者。

絶対に、絶対だからね、と
重ねて言い、妹は帰って行く。


「―――で」

馬舎に規子と青年。
山一族が狩りで使う馬が並ぶ。

「なんでまた来ちゃうのよ」
「案内しろと言われて」
「断りなさいよ」
「もういっそ
 どうなるのか見届けたいというか」
「物好きね」

ぷっと、青年は吹き出す。

「お前こそ」

「ええ?」
「お前こそどうするつもりだ。
 黙ってなりゆきを見守るつもりか?」

「……どうすればいいのかが
 ちょっと分からないのよね」

「帰りたい?」

確かに、このまま青年との噂が流れて
今の結婚が破棄になれば。

「帰る場所なんて無いし」
「西一族で好きなやつぐらい
 居ただろう?」
「急に話を変えてきたわね」

ねぇねぇ、と
少し懐かしそうに規子が言う。

「西一族だけど狩りは得意じゃない。
 でも、とってもかわいい子が居たのよ」
「おいおい、話をそらすのか」
「違うって、聞いてよ。
 私ね、ずっと嫌いだった、その子のこと。
 狩りだって、きちんと出来ないのに、
 彼はその子に狩りの分け前をあげていた
 甘えてる、ずるいって思ってた。」

『彼』と言った規子に
青年は静かに耳を傾ける。

「私はきちんと狩りをしているのに。
 頑張っているのに。
 でも、そんな事言っても彼に嫌われるだけでしょう」

だから、ほら。

「良い子よね。かわいい子よねって褒めて、
 上手くいくといいね、って後押ししたり」
「なんでまた!!」
「だって、理解がある人だって
 思われたかったのよ」
「よりにもよって、
 後押しすること無いだろう??」

「それは、私も
 ちょっと、失敗したなというか」

つい、いつも
人当たりの良いこと言っちゃって。

あぁあ、恥ずかしい、と
規子が言う。

「結局の所、
 嫌いって言いながら
 私はあの子になりたかったんだろうな」

もう、済んだことなんだけど、と
規子は話を締めくくる。

「いや、それおかしいだろ」

「いいじゃない。
 私だっておしとやかなのに憧れたって。
 もう!!この話は終わり!!」

「だから、
 お前は狩りが得意で
 それだけが自慢なんだろう?」

な?と青年は言う。

「そこを押していけ!!」

「私あなたのこと
 しっかりとした人だと思っていたけど
 ちょっと変わった人という認識に変えるわ」

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