TOBA-BLOG 別館

TOBA作品のための別館
オリジナル水辺ノ世界の作品を掲載

「小夜子と天院」16

2015年11月13日 | T.B.2017年


 彼女は、ひとり。
 果物を抱え、東一族の村のはずれ、墓地へと向かう。

 その歩きは、ゆっくりだ。

 墓地に入ると、彼女は、両親の墓へと向かう。
 あたりには、誰もいない。
 いつも通り、彼女は墓をきれいにする。
 果物を供える。

 それが終わると、墓前に坐る。
 墓を眺め、両親の形見の品を取り出す。

 ――焼け焦げた、東一族の装飾品。

 彼女は、それを付ける。
 彼の装飾品と、両親の装飾品が並ぶ。

 そのまま。

 時が過ぎる。

 彼女は、ただ、墓前を見つめる。

 しばらくして。

 誰かの足音。

 彼女の近くまで、その音はやって来る。

「……誰?」

 彼女は振り返る。
 彼女の後ろに来た者は、一瞬、身を引く。

「……誰、なの?」

 彼女は目をこらす。
 そこに、誰かがいるのは判る。
 けれども、姿はよく見えない。

「ごめんなさい」
 彼女は云う。
「目が悪くて、見えないの」

 ああ。と、そこにいる誰かは頷く。

「迷い込んで悪い。自分は、外から来た商人だ」
「商人?」
「……実は、ね」

 商人は彼女を探りながら、話す。
 けれども、彼女はその様子に気付かない。

「自分は、東一族の偉い方に薬を届けてる」
「そうなの」

 彼女が云う。

「私、宗主様の屋敷で働いているの。案内します」
 彼女は立ち上がる。
「目が見えなくて早く歩けないのだけど、着いてきてもらえれば」
「いや、」

 商人が云う。

「自分は、急いで次に向かわなくちゃならない」
「まあ」
「君に、託してもいいかな」
「もちろんです」

 商人は、小さな包みを取り出す。

「大丈夫?」
「ええ」

 彼女は受け取ろうと、手を差し出す。

 と

「あれ?」

 商人は、彼女の手に付けられた装飾品に気付く。

 焼け焦げた装飾品。

「……何か?」

「その装飾品……」
「これ、ですか?」
「知ってるよ!」

 商人は、彼女の父親の名を出す。

「君は、娘さん?」
「はい」
「ああ。目の病だと、確かに云っていたよ!」
「父が?」
「君の薬を作っていたのは、俺だ」
「そうだったのですか」

 彼女は頭を下げる。

「お父さんのことは、本当に悔やまれるね」
「……ええ」
「お父さんから、話は聞いてる?」
 彼女は首を振る。
「ごめんなさい。商人さんのことは、何も……」
「いや、いいんだ」

 商人は、笑う。

 それでいい、と。

「じゃあ、悪いけど」
 商人は改めて、薬の包みを差し出す。
「これ、頼むね」

「判りました」

 彼女はそれを受け取る。



NEXT

最新の画像もっと見る

コメントを投稿

ブログ作成者から承認されるまでコメントは反映されません。