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「成院とあの人」6

2014年06月17日 | T.B.1999年


考えるより前に、成院は回り込んで後ろから相手を押さえ込む。

「うぁっ!!」

声の感じから、自分と同じぐらいの年頃の青年だと分かる。
成院がとっさに手放した明かりが床を転がり
青年の白色系の髪を照らす。

西一族。

成院を含め東一族の男は小さな頃から武術の訓練を受ける。
東一族の医師が成院を使いにやったのは、
成院ならばもしもの時には
切り抜けられるだろうという判断をしたからだ。

なのに、気を抜きすぎた。
どうして気配に気付かなかったのだろうと、成院は冷や汗をかく。

「静かにしろ」

「だ、……どろ、ぼ」

絞り出すように青年が声を出す。
そもそも成院が馬乗りになって押さえているので
声もろくに出せないのだろう。

「…たす…け…っ」

言葉の合間に、ぜいぜいと、不規則な呼吸が聞こえる。
恐怖や圧迫から来るものとは別の物。
成院は息をのむ。
ここは病院だ。こんな遅い時間にここに居るという事。

「患者、か」

青年と、病に倒れた弟の姿が重なる。

成院は彼を消すしか無い。
東一族が入り込んだとばれてはいけない。
きっと、杏子に何かしらの害が及ぶ。

それ、でも。

人を助けるはずなのに。
そのために人を殺すのか。

顔は見られていない。
東一族の特徴である黒髪は、布で覆って見えないようにしている。
それにこんな深夜のわずかな明かり。

分かる訳がない。

「……何もしないから、お願いだ。
 静かにしてくれ」
「な…に…?」

絞るように、西一族の青年が声を出す。

「薬をひとつ、貰っていく。
 頼む、家族が……弟が、死んでしまうんだ」

そのまま成院は体重をかける。

「すまん」

強引だが、呼吸を詰めればわずかの間、意識が落ちるはずだ。

それに気付いたのか、青年がぐるりと身をひねる。
その事態に、成院は思わずぽかんとしてしまう。

この体勢から身をひねる?
自分がかなりの力で押さえているのに?

すぐに成院は体重をかけて押さえ直す。

だけど、その一瞬
青年の振り払った手が
成院をかすめる。

ぱらりと、成院が被っていた布が落ち
床に転がるわずかな明かりが2人の姿を照らす。

「……黒い…髪」

向き直ったせいで、西一族の青年が目を見開いているのが見えた。
はやり、髪と同じく、白色系の瞳。
しまった、と思うと同時に
青年の表情が見えた。

彼は、薄く笑う。


「なんだ、東一族か」


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