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「西一族と涼」3

2014年04月18日 | T.B.2019年

 四人は、足場の悪い道を、歩く。

 途中から、道がなくなる。
 背の高い草が、生い茂っている。
「こりゃ、しばらく誰も近寄ってないぞ」
「紅葉、方向はあってる?」
 紅葉は、地図を広げる。
「この先で、間違いないわ」
 誠治が、草をかき分け、進む。
 あとに、悠也が続く。

 涼が振り返り、云う。

「紅葉、先に」
「え、そう?」
「道は、彼らが作ってくれてるから」
「ああ。そうね」

 紅葉が先に進み、涼が一番後ろを続く。

 彼らは、なるべく音を出さないように、歩く。

 誠治が声をひそめ、云う。

「近くにいるぞ」
「単体か? 群れか?」
 云いながら、前のふたりは、どんどん進む。

 彼らとは、違うところから、草木の揺れる音が聞こえる。

「止まれ!」

 突然、涼が声をあげる。
 叫んだわけではないが、前のふたりまで、その声が届く。

 驚いた三人は、身をひそめる。

 何かが、近付いてくる音が聞こえる。

 多くのものが、動いている、音。

「やるか?」
 悠也が訊く。
「場所が悪すぎて、道具を使えないだろ」
 誠治が、云う。
「やり過ごす」

 四人は、草に囲まれ、歩くのがやっとの状況だった。
 ただ、その場でじっとしている。

「何の獲物だろ?」
 紅葉は、振り返り、涼を見る。
「蛇だ」
 涼が答える。
「獲物どうし、エサを取り合ってる」
「この音が、そうなの?」

 蛇が、群れで、エサを追っているのだろうか。
 音は鳴り止まない。
 誰も、動かない。

 待つ。

 やがて

 四人に近付いてきた音は、だんだんと、遠ざかっていく。

 その音は、聞こえなくなる。

「行った?」
「行った」
 悠也はため息をつく。
 云う。
「余計な体力使った」
「仕方ない」
 誠治が云う。

「急ぐぞ」

 草だらけの道を進む。
 途中途中で、帰りの目印を付ける。

 日が昇る頃、山間の川にたどり着く。

 川は大きい。
 真ん中あたりは深く、流れが速くなっている。
 川岸は、石場になっている。
 大きな岩が転がっており、身を隠すことも出来る。

 悠也が、空を見る。
「あまり、天候がもたなさそうだな」
 空には、多くの雲が出ている。
「待つだけ待つぞ」
「どれくらい?」
「獲物が出るまで、だよ」
「ひょっとして、野宿覚悟も?」
「仕方ないだろ」
 誠治は道具を取り出し、云う。
「何も持って帰らないわけにはいかない」

 誠治が、三人に指示を出す。

「ふたりずつに分かれて、岩陰に隠れろ。獲物を見つけたら合図だ」

 誠治と悠也は、風下に、
 涼と紅葉は、風上の岩陰に、それぞれ身をひそめる。

 獲物を、待つ。

 悠也が、声をひそめ、云う。
「白い熊が出たらどうする?」
「願ったり叶ったりだ」
 誠治は、鼻で笑う。

 白い熊、とは、
 この辺り一帯の獣の長、ではないかと、西一族の中では噂になっている。

 身体が大きいだけではなく、
 かしこく
 いまだ、誰も捕らえることが出来ない。

 それゆえ、とても危険な存在だった。

「あと、そうだな」
 誠治が云う。
「涼にだけ襲いかかれば、もっとおもしろいけどな」
 悠也がため息をつく。
「おもしろい、で、すめばいいけど」

 白い熊が現れれば、全員、無事ではすまない。

 さらに、時が経つ。
 日は、雲で隠れる。

 気温も、下がってくる。

 と

 突然、獲物の強い気配を感じて、四人に緊張が走る。

 それぞれが、岩陰から川をのぞく。
 川の流れる音だけが、聞こえる。

 まだ、何も現れない。

 息をひそめ、彼らは、川を見つめる。



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