雨が降り続いている。
が
状況を知ろうと、広場には、たくさんの西一族がいる。
誰もが、雨に濡れている。
「まあ。でも、さ」
近くにいた誰かが云う。
「よかったんじゃないか、あいつで」
琴葉は顔を上げる。
「崖から落ちたのが、あいつで」
「まあ、そうね」
さらに、誰かが云う。
「黒髪のあいつだったからねぇ」
「いてもいなくても、……いや、むしろいない方が」
「一族のため?」
小さな笑い声。
「いくら狩りの能力があってもな」
「西一族で黒髪じゃあ」
「とても……一緒にはいたくないよな」
「何を!」
琴葉は、その笑い声に、掴みかかろうとする。
が、
すぐに振り払われる。
琴葉は倒れる。
「お前も役立たずなんだから、」
「いない方がいいに決まってる」
「何で、……何で」
琴葉は首を振る。
「お前ら、いらない者同士だもんな!」
琴葉は歯を食いしばる。
手を見る。
服を見る。
雨と泥で、汚れている。
琴葉は、身体を起こす。
そのまま地面に、手をつく。
うつむき、声を出す。
「……お願い」
云う。
「助けに、行って」
広場がざわつく。
多くの西一族が、彼女を見ている。
琴葉は坐り頭を下げたまま、云う。
「ねえ、……誰か」
誰か
誰でも、よい。
「お願い。彼を助けに、」
助けに、行って。
雨が、琴葉を濡らす。
多くの西一族がいる。のに、誰も動かない。
何も、云わない。
「お願い……」
誰か。
「……お願い、……します。彼を助けて」
雨が降り続ける。
「涼(りょう)を助けて……」
琴葉は首を振る。
「……どうして」
琴葉は、顔を上げる。
その顔は、服は、泥で汚れている。
涙を流している。
多くの西一族は、琴葉から目をそらす。
……どうして
「どうして誰も、助けてくれないの……?」
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