TOBA-BLOG 別館

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オリジナル水辺ノ世界の作品を掲載

「稔と十和子」5

2018年07月24日 | T.B.2003年

「ちょっと、よいかしら?」
「はい」

稔は高子医師に呼び止められる。
診察も落ち着いて、
あとは入院患者に処方する薬の確認のみ。

老医師が抜けた穴は大きくはないが
いつもと違う仕事が入ると
通常の業務にも支障が出る。

細かい種類の違う業務が続けば
集中力が途絶えてしまうというか。

そんな業務にも慣れてきて
やっと元のペースに戻れた所。

医師の控え室で
高子の前の席に座る。

「どうしましたか、先生」
「………急な話で申し訳無いのだけど」
「はい」
「あなたも医師見習いとして
 長い間、私の元に付いてきたわね」
「そうですね、
 勉強させて頂いてます」
「もう充分
 1人の医師としてやっていけるわ」

おや。
どうしたんだ、急に、と
内心稔は首を傾げる。

「いえ。
 まだ勉強することが多く、
 これからも先生の元で働けたらと」

決して、医師になりたい訳では無い。
あくまで
見習いとしてここに居る事が大事なのだ。

「そう言ってもらえるのは嬉しいけど。
 えぇ、その………迷惑をかけます」
「はい?迷惑だなんて?
 ……何かありました先生?」
「今年の冬頃から少し長い休みを貰うわ。
 それまでにも、ちょくちょく急な休みがでるかも」
「冬から、ですか?
 今ではなく?」

半年以上先の話になるが
時期がなぜ限定的なのか。

「この病院の状況を考えると
 早く復帰はしたいのだけど、
 あなたを育てていた甲斐があったわ」
「???」
「不安なことは
 これから半年でみっちり仕込みます」
「え??先生???だからなにが??」

すうっと、息を吸う高子。

「産休・育休よ!!」

うん。
確かに3人だった医師が
1人減り、更に1人。

大変になるだろうが
子が産まれるのは良い事だ。

「………ご懐妊、おめでとうございます」

うーん、頑張れるかな。
村長医師を追加してくんないかな。
というか、もう一つの仕事は
その期間お休みさせてもらえないだろうか。

内心色々な独り言が駆け巡りながらも
それを顔に出さないように話しを続ける。

「それにしても、驚きました。
 相手は、
 ………俺の知ってる奴じゃないですか」
「あら、勘がいいのね」

うん。
そういうことにも情報を張り巡らせるのが
稔の本来の仕事だ。

いや、でも
先に籍を入れて、
それから子だと思うじゃないですか。

その流れなら
近いうちには、という腹づもりもできていたのだが。

「湶のこと。
 今度一発殴っておきますねっ」

幼なじみの顔を思い浮かべつつ
稔は拳を握る。


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