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オリジナル水辺ノ世界の作品を掲載

「稔と十和子」3

2018年07月10日 | T.B.2003年

「どうした、機嫌が悪そうだな?」

村長に声をかけられ、
稔は、いいえ、と言いかけて
ため息をつく。

「久々に失態をおかした、というか」
「ほう」
「正体が、ばれそうになりました」

おや、と村長も声をだす。

「めずらしいな、
 湶や巧、あたりか?」

勘が鋭そうな者の名を挙げるが
その都度、稔の機嫌は降下していく。

「彼らにばれるなら
 まだ、体裁も保てたんですが」

「まさか、お前、女」
「違いますよ!!
 ………いや、女性ですが」

ガタン、と思わず椅子から立ち上がる村長。

「しばらく、任務休む?」
「そんなんじゃないって
 言ってるじゃないですか」

通常の報告がてら
今日の出来事を説明していく。

「十和子、確か耳の不自由な。
 それでまた、なぜ」

村長の問いかけに
稔は、はい、と掌を見せる。

「成る程、指を見てか」

武器を持つときの癖だろうか
親指に少しだけタコが出来ている。

基本、柔術を使うのが専門だから
さほど目立つ物では無い。

武器の扱いに長けた者には
注意を払っていたが、
確かに彼女は視力を頼りに生活をしている。

特に手話を使うのならなおさら。

人の手元というのは
誰よりも見ているだろう。

「どこかに潜入しているわけでもないのに
 久々に冷や汗をかきました」

「きちんと、取り繕ってきたのだろう」
「ええ、もちろん」
「意外だが、まぁそういう事もある。
 人を見た目で判断しない事だ」
「肝に銘じておきます」

まぁ、でも、と
稔は続ける。

「老先生が不在の間の患者ですから
 今回だけの特例でしょうね」

ただ、勉強にはなりましたよ、と。

三日後、出勤したての稔に
高子医師が宣言する。

「老先生、ついに引退宣言よ。
 先日通り、老先生の患者が増えるから
 覚悟しておいて」

稔は頭を抱える。
つまり、彼女もこれから定期的に顔を合わせるという事。
朝からこれはきつい。

「………マジですか」


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