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オリジナル水辺ノ世界の作品を掲載

「東一族と裏一族」5

2018年07月20日 | T.B.1997年

「さあ。答えるんだ、蒼子」

 大将は、ただ、蒼子を見る。

「あの裏一族の目的は何だ」
「…………」
「知っていることだけでいい」
「でも、」
「不確かでもいい」
「大師様」

 蒼子は息を吐く。

「あの人は、……」
「…………」

 大将は蒼子の言葉を待つ。

 あの人

 つまり

 蒼子が接触した裏一族のことだ。
 西一族を離族したと云う。

「血を集めていると云っていたわ」
「血?」
「自身の血と、各一族の……」
「自身の血とほかの一族も?」
「だから、その子どもを、……」

 蒼子はうつむく。

「つまり、」

 大将は口元に手をやる。

 いや、これは、推測でしかない。

「蒼子」

「はい」

「情報に感謝する」
「…………」
「今は、安樹のもとに戻りなさい」
「でも、」
「何だ?」
「安樹は務めに……」
「こちらから伝えておいてやろう」
「…………」
「さあ」
「……感謝します、大師様」

 蒼子は、大将を見る。
 大将は頷く。

 蒼子は手を合わせ、礼をする。

 外へと出て行く。

 大将は、扉が閉められたのを確認する。
 そして
 ひとり残されたその場所で、先ほどのことを再開する。

 報告書に目を通す。
 必要なものに、印を付ける。

 しばらく、そうしている。

 待つ。

 もう少し時が経って

 そろそろ来るはずだ。
 そう大将が思った通り

「お帰り」
「……はい」

 部屋に入ってきた者。

「来ると思っていた」
「そう、ですか……」

 大将は彼を見る。

 彼は手を合わせる。
 東一族式の礼。
 もちろん黒髪である彼は、その礼で敬意を示す。

 東一族としては、他の者に比べて体格がいい、が。

 先ほどの蒼子の子。

 満樹。

 彼は、しばらく村を出ていた。
 東一族の村に入り込もうとする者。
 他一族の諜報員か
 裏一族なのか
 その情報を集めるために。

「大将……」
「どうした?」
「いえ……」
「ずいぶん疲れているな」
「えーっと、」

 外から帰って来たばかりだから、と云うわけではなさそうだ。

 満樹は人がよい。
 おそらく、東一族の村に戻ってきてすぐ、
 満樹を慕う者たちの相手をしてきたのだろう。

 大将は微笑む。

「疲れているのだろう」
「まあ、……」
「務めとは無関係のことで?」
「……はい」
「まあ、坐りなさい」
「いえ、大丈夫です」

「なら」

 大将が云う。

「報告の前に、皆を集めよう」



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