TOBA-BLOG 別館

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オリジナル水辺ノ世界の作品を掲載

「山一族と海一族」14

2016年08月19日 | T.B.1998年
 アキラの鳥がいないことに、マユリは気付いた。
 
 今、狩りは行われていない。

 つまり
 アキラの鳥は、狩り以外の用途で外を飛んでいると云うことだ。

 マユリは待つ。

 やがて

 思ったとおり、アキラがやって来る。

「鳥はどちらへ?」
 マユリの問いに、アキラは答えない。
「云うな」
「ええ。判ってます」
「しばらく俺の鳥は戻らない」
「どちらに鳥を飛ばしたのですか?」
「…………」
「カオリを探すために?」

 答えないアキラに、マユリは確信する。

「海へ鳥を飛ばしたのですね?」

 マユリはアキラを見て、さらに問う。
「カオリの失踪は、海が関わっている?」
「そう云うことじゃない」

 アキラが云う。

「カオリが川の方に行ったことは間違いない」
「川? カオリが?」
「あの川は、海一族の村へと流れている」
「なら」
「カオリが海にたどり着いた可能性があると云うことだ」

「カオリは、……自らの意志で山を出たのでしょうか」

 アキラは答えない。

 それが答えだ。

 マユリも、カオリの気持ちは判る。
 生け贄として死ぬことが決まったのだ。
 逃げることも思い浮かぶはず。

「おそらく……」

 マユリは云う。
「フタミ様方は、慌てていらっしゃる」
「だろうな」
「生け贄は、両一族の存続と関係に関わることですから」
「…………」
「もし、カオリを見つけたのなら、伝えてください」

 村の外へと向かうアキラの背中に、マユリは云う。

「生け贄として、私が赴きますから」

 安心して、帰っていらっしゃい、と。



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