TOBA-BLOG 別館

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オリジナル水辺ノ世界の作品を掲載

「ヨシキとセイコ」4

2016年08月02日 | T.B.1962年

今日は2人で食事を取る。
いつもの野菜中心の料理を終えた後
彼は紙袋を取り出す。

「……?」

彼女がそれを不思議そうに見つめる中
絞りを緩めて袋の中身を見せる。

「彩りがキレイね、何これ?」
「砂糖菓子だよ」

彼が説明すると
ためらいなく彼女はそれをつまむので
彼は少し驚く。

「セイコ?!」

「食べたらダメだった?」

ごめんなさい。と
彼女は袋を彼の方に返す。

「いや、君のために持ってきたけれど。
 初めて食べる物なのに
 躊躇は無いのだな」

「だって、ヨシキが持ってきた物だもの」

あぁ、と彼は言う。

「口には合った?」
「えぇ、美味しい。
 甘いのを食べたのは久しぶりよ」
「なら、良かった」

机の上の食器を片付け
彼は彼女と向かい合うように腰掛ける

「じゃあ、少し話そうか」

そう言って、彼は始める。

「君の村には何人住んでいた」
「私もきちんと把握したことないから
 分からないわ」
「男女の比率は?」
「想像にお任せする」

彼が問いかけ
彼女は返答にならない返答を返す。

同じ様なやりとりが
何度も繰り返される。

「最近、ウチの砦が
 次々と落とされている。
 そう簡単に落ちるはずがない所もだ」
「そうは言っても
 東一族も次々砦を落としているでしょう」

「西一族が抱えている策は何だ?」

「………」

彼女は微笑み、答えることはない。

「残念だけど、言えないわ」

彼は深くため息をつき
手帳を閉じる。

「今日はもう終わりだ」
「答えられなくてごめんなさい」
「謝るぐらいなら
 答えてくれたら良いのに」

どうする?と
いつものように問いかけると
彼女は横になると言う。

彼は彼女の手を引く。
彼に支えられ、何とか動く左足で
動かない右足を引きずるように歩き
寝具の上に座る。

「また、明日」

「えぇ、また明日」

彼は部屋を出て、
外側から扉の鍵を掛ける。


「ヨシキ……芳樹」

部屋を出たところで呼び止められ
彼は、はい、と
そちらに向き直る。

彼よりも高い地位にいる
東一族の男が立っている。

「次の戦いには
 お前にも召集がかかっている。
 準備をしておけ」
「分かりました」
「もう、二度目だから
 慣れたものだろう。
 どちらにしろ、次で終わる」
「……終わる、とは」
「言葉の通りだ」

男は施錠された扉に視線を向ける。

「あの、西一族の女は。
 結局何の情報も出さなかったな」
「………」
「もう少し
 厳しく尋問しても良かったんじゃないのか」
「すみません」
「もう良い、今更だ。
 女も戦う西一族はやりづらいな」

終わる。
争いが。

「セイコは、
 西に帰るのか」

呟いた彼の言葉を
男が拾う。

「名乗らないからって名前を付けたのか。
 西一族の女だから、西子、か。
 情が移るような事をして」

ふん、と男はため息をつく。

「捕虜は返されるが、
 あの女は難しい」
「え?」
「酷い尋問を受けたと
 西一族側から因縁を付けられるかもしれない」

彼は首を振る。

「……尋問じゃない、セイコの足は」
「あぁ、戦場で負った傷だ。
 だが落ち着きかけた情勢を
 蒸し返すには良い理由だ」


「可哀想だが、
 そのまま、ここで死ぬだろうな」



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