TOBA-BLOG 別館

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オリジナル水辺ノ世界の作品を掲載

「琴葉と紅葉」13

2016年08月05日 | T.B.2019年

 久しぶりの晴れ間。

 琴葉は、丘を登る。
 丘は草だらけで、その草は、琴葉の背を越えている。

「久しぶりの晴れだわ!」

 琴葉は声を出す。
 少しだけ歌う。

 が

 すぐに歌うのをやめる。

 琴葉の後ろには、彼が続く。

 琴葉は、歩き続ける。
 ゆっくりと。

 たぶん

 普通に歩けば、彼の方が早い。
 けれども、彼は、琴葉の後ろを歩く。

「ねえ」

 彼が声をかける。

「これから、どこへ?」
「探しもの」

 琴葉は、草をかき分け、地面を見る。

「ほら」

 琴葉は一枚の葉を手に取る。

「これを集めるの」
「これは、」
「目の病に効くんだって」
 琴葉が云う。
「母さんが、暇なときにでも探して来てって」
「へえ」
「病院で使うのかしらね」
 琴葉は、自身で頷く。
「たまには、まじめにやるわよ」

 琴葉は、次々と葉を手に取る。
 彼は、その様子を見る。

 葉を集めながら、やがて、丘の反対側へと出る。

 そこは、村の広場。
 西一族の狩りの拠点。
 久しぶりの晴れと云うことで、大勢が狩りに出ているのだろう。
 広場には誰もいない。

「ねえ」

 琴葉は、空を指差す。

「鳥」
「鳥?」
「獲ってよ」

 晴れた空に、鳥が舞っている。
 彼は、矢を手に取る。

「一羽でいい?」
「足りる?」
「俺は、食べないし」

 彼は矢を放つ。

 鳥が落ちる。

 琴葉は、その鳥を拾い上げる。
 嬉しくなって、琴葉は少しだけ歌う。

「塩漬けして、保管しよう」

 そう、振り返る。
 彼を見る。

 彼は、

 手を合わせている。

 手を合わせている、と云っても、よくやる祈りとは違う。
 片手は開き、片手は閉じている。

「……何、それ」
「別に」
「…………」
「…………」
「ひょっとして、祈ったの?」

 彼は答えない。

 と

「何だ、役立たずじゃん」

 西一族の誰かが、広場にやって来る。
 狩りから、戻って来たのだろう。

 役立たず。

 それは、琴葉に向けられている。

「へえ、葉っぱ探し?」
「すごいねぇ」
「大変でしょ」

 琴葉は目を細める。

 誰かは、小さく笑っている。
 薄ら笑い。

「でも、やっぱり肉は食べるんだ」

 琴葉は背を向け、歩き出す。

 彼は何も云わない。
 追いかけても、来ない。



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