TOBA-BLOG 別館

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オリジナル水辺ノ世界の作品を掲載

「海一族と山一族」11

2016年08月16日 | T.B.1998年

海一族の村から随分山を登った所。

山一族の村から随分山を下った所。

そこは、中間地帯と呼ばれる場所。

どちらの領土でもないが、
海一族と山一族以外は
立ち入ることが無い場所。

日が沈んだその時間に
布で深く顔を隠した人々が
どこからともなく集まる。

「数十年ぶりだ」

そう呟いた人物は
辺りを見回すように言う。

「災いが起こり始めた。
 また、この時がやって来た」

一方の集団が
口火を切ったように
話し始める。

「期限はあとひと月を切った」
「そちらの準備は出来ているのか」
「まさか」
「逃げ出してはいないだろうな」

すると、とんでもない、と
もう一方の集団が言葉を返す。

「逃げ出すなどと、そんな」
「言われもない事を」
「生け贄は、もう準備に入っている」
「身を清め。
 日々祈りを捧げている」

集団をとりまとめるであろう人物が
互いを落ち着かせるように言う。

「それならば、良い。
 何も問題は無い」
「一人の犠牲で皆が救われる。
 今は、それしか手立てがない」

「そして、その生け贄の名は」

問いかけにもう一方が答える。

「文でも伝えた通り」

「名をカオリという」

その時
一人が首を傾げるような動きをしたが
話はそのまま続く。

「それでは、約束の日に」
「ひと月後、その時に」

彼らは杯を掲げる。

「その尊い犠牲に敬意を」

杯を干すと
そのままお互いにもと来た方へと戻っていく。

それはあっという間の出来事。

山を下る一行は
松明の灯りのみで足元を照らす。

帰りの道は暗く、
だが、しきたりに従い無言のまま
彼らは山を下る。

やがて、日付も変わる頃に
村に着いた彼らは
散り散りになり帰途へと着く。

一人、家の扉を開け、
顔を覆っていた布を取り
混乱する頭で
トーマは先程の会話を思い出す。

生け贄の、その、名前。


「カオリ?」


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