TOBA-BLOG 別館

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オリジナル水辺ノ世界の作品を掲載

「琴葉と紅葉」14

2016年08月12日 | T.B.2019年

 琴葉は家を出る。
 あたりを見る。

 誰もいない。

 日は沈もうとしている。
 琴葉は村はずれへと、向かう。

 馬車乗り場へ。

 もうすぐ、馬車が出る時間。

「どこへ行く?」

 その言葉に、琴葉は思わず、立ち止まる。

 この声は

「……何よ」

 黒髪の、彼。

「この時間に、どこへ?」
「どこだっていいじゃない」
 琴葉が云う。
「あんたこそ、何をしているのよ」
「帰り」
「え?」
「狩りの」
「ああ。狩りの帰り、ね」

 彼は、琴葉が向かう先を見る。

 馬車乗り場が、見える。

「馬車……」
「何よ」
「乗るの?」

 琴葉は、答えない。

 代わりに

「ねえ。……誰にも云わないでよ」
「何を?」
「ここに、私がいたこと」
 琴葉が云う。
「約束だからね」
 もう一度
「云わないでよ!」

 彼は、琴葉を見る。
 何も云わない。

 琴葉は、歩き出す。

 馬車乗り場へと向かう。

 琴葉は、振り返る。

 彼は、その場から動かない。

 ああ。

 この前と同じだ。

 追いかけてなんか、来ない。
 冷やかされて、逃げた自分を、追いかけて来なかったように。

 琴葉は前を向く。

 馬車に乗ろう。

 そして

 西一族の村から、出よう。

 狩りに行けない、
 役立たずの自分。

 きっと

 いなくなっても

 誰も心配しない。

 誰も、

 ……気付かない。の、かな。

 琴葉は、馬車に近付く。

 すでに、馬車には数人が乗っている。

 馬車乗りは、北一族なのだろうか。
 西一族では見られない服装。

「出るよ」

 馬車乗りが云う。

「乗る?」

 琴葉は頷く。

 馬車に乗り込む。

 ほかの人と同じように、坐り込む。

 馬車乗りが声を上げる。

 馬車が、動き出す。



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