TOBA-BLOG 別館

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オリジナル水辺ノ世界の作品を掲載

「西一族と涼」4

2014年04月25日 | T.B.2019年

「でかいな」

 そうは云うものの、まだ、獲物の姿は確認できない。

 誠治は、向こうのふたりを見る。
 離れた岩陰の紅葉と、目が合う。

 紅葉が頷く。

 悠也が、云う。
「この気配、草食じゃないな。やり過ごすか?」
「数を見てからだ」
 誠治が云う。
「肉食でも、単体なら、俺と悠也でやれる」
「単体なら、な」
「肉食の獲物なら、まず、風上の向こうふたりが狙われる」
 続けて、誠治が云う。
「そこを、背後から仕留める」

 誠治は、道具を握りしめる。
 悠也は、目をこらす。

 そのとき、

 獲物が川に現れる。

 川の向こう側ではなく、四人と同じ川岸。

 岩が、死角を作り、姿が見えにくいが、熊だ。

「熊だぞ」
 悠也が、誠治を見る。
「白じゃない。……やれる」
「でも、熊だって!」
「一匹だ。やれる!」

 黒い熊は、臭いを嗅いでいる。
 四人の存在に気付いている。

「……涼」

 息をひそめ、紅葉は、涼を見る。
 その顔に、不安がにじみ出ている。

 涼と紅葉の、すぐ近くに、その熊がいる。
 獲物は、臭いを嗅ぎながら、さらに、近付いてくる。

「走る?」
 紅葉は云うが、足場が悪い。
 石だらけで、早くは走れないだろう。
 紅葉は、狩りの道具だけを持つ。
 他の荷物は、棄てるしかない。

「待て」

 涼が、あたりを見る。

「もう一匹だ」
「まさか!」
「向こうふたりは、気付いているか?」
「え?」
 紅葉は、岩陰から見る。

 誠治と悠也は、現れた熊を見ている。

 そもそも、もう一匹の姿は、紅葉にも見えない。

「涼、もう一匹は」
「近い」
 涼が云う。
「二匹とも、こちらに気付いている」
 涼は、弓を持つ。
「ダメだよ」
 紅葉が慌てる。
「二匹なら、逃げよう。熊だよ!?」
「紅葉」
 涼が云う。
「俺が、弓を放つから、反対側に走れ」
「え、でも」
「同じ方向に走るわけにはいかない」
 紅葉は、震える手で、狩りの道具を握りしめる。
 頷く。

 涼が、弓を構える。

 獲物が、地面の臭いを嗅ぐ。
 顔を上げる。

 その瞬間、
 涼が、矢を放つ。

 紅葉は、走り出す。

 矢は、獲物の喉元に刺さる。
 驚いた獲物は、後ろに大きくのけぞる。

 それを見て、誠治と悠也も飛び出してくる。

 と

 突然、誠治と悠也の背後から、もう一匹の熊が現れる。
 ふたりに飛びかかる。

「後ろだ!」

 涼の言葉に、ふたりは、慌てて地面を蹴る。
 飛びかかってきた、もう一匹の熊を、避ける。
 獲物は、そのまま、ふたりが隠れていた岩を、砕く。

「悠也、走れ!」
 誠治の合図で、誠治と悠也は、風上へ走る。
 涼の元へ。

 すれ違いに、涼は、新たに現れた獲物へと向かう。
 その獲物をすり抜け、走る。

 獲物は、涼を追う。


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