TOBA-BLOG 別館

TOBA作品のための別館
オリジナル水辺ノ世界の作品を掲載

「成院と戒院」1

2014年04月08日 | T.B.1999年

「戒院(かいいん)は、病にかかっているよ」

村の医者は成院(せいいん)にそう告げた。
「……え?」
一瞬、成院の思考が止まる。

いや。

病と言っても色々あるじゃないか、と
嫌な予感を感じながらも
自分に言い聞かせる成院に、医者は畳みかけるように告げた。

「君の弟は、流行り病だと言っているんだ」

数カ月前からこの村に謎の病が流行っている。
元気なはずの村人が突然死んだ。
成院と同い年の現宗主の息子もそうだった。
―――その恋人も続くように。

絶望を感じながらも、成院は言う。

「戒院が、弟が……助かる方法……は?」

医者は沈黙する。
手厚い治療を受けることが出来る
宗主の息子ですら死んでしまったのだ。

助からないのか。

諦めかけたその時、医師が口を開く。
「成院、君に覚悟があるのならば」
「覚悟?」
「今この村を襲っている病は
 獣が持っている病原体からだと言うことまで分かってきた。
 いずれ、ワクチンを作ることが出来る」
「……ワクチン?」
医師は再び口を閉ざす。
「検体になればいいのか?俺が出来る事ならば!!」
「そうじゃない、違うんだ成院」
ため息が部屋に響く。
「すまないが、戒院はワクチンの完成には間に合わない」
「……だったら、俺に何をしろと」

「もしかしたら、という話だ」

医師は診察室の窓から外を見つめる。
少し小高い丘にある病院の窓からは、湖が見える。
医師の視線は湖の先に向けられている。

「狩りを主とする一族ならば、
 普段から我々よりこの菌に接触する機会が多い。
 この病気に対する薬が、すでに出来上がっているかもしれない」

「狩りの……一族」

成院はつばを飲み込む。
医師が言うその一族は一つしか思い当たらない。

湖の先にある。
彼らの一族、東一族と長年敵対している狩りの一族。

「西一族」

「そうだね」
医師は言う。
「戒院が助かる可能性があるとしたら、そこしかない」


NEXT