TOBA-BLOG 別館

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オリジナル水辺ノ世界の作品を掲載

西一族と東一族

2014年04月01日 | T.B.1962年
遠くから警笛のような音が響く。

彼女は水辺の、
そこに浮かんだ舟の上でそれを聞いていた。

「終わったのね」

「終わったなぁ」

彼女の舟のすぐ近く
また別の舟に乗った彼は話しかける。

もし、あの音が
あと一時間遅く響いていたら
そこに立っていたのは
彼女だけだったかもしれない
彼だけだったかもしれない

どちらも
いなかったかもしれない。

「争いが、終わったのね」

湖をはさんで、
彼らの間には小競り合いが絶えなかった。

「私の叔父は東一族に殺されたわ」

西一族の彼女が言う。

「俺の年の離れた兄は
 西一族との争いで死んでしまったよ」

東一族の彼が言う。

彼女も彼も
敵の一族と戦うためにやって来た。

でも、それも終わり。

あまりにも長く続く対立に
多くの犠牲に、
やっと話し合いの場が持たれた。

らしい。

今後、一切の交流をしないという条件で。

詳しい事を彼らは知らないが
先程の音、は
話し合いが無事に終わった証だ。

「いつか、どこかで
 また、会うことがあるかな?」

彼の問いに彼女が答える。

「きっとそれが出来るのは
 私たちの子どもや孫の世代の話でしょうね」

気の遠い話だ、と彼は思う。

「その時は、東一族と西一族の間に
 生まれた子どもがいたりするのだろうか」

「……そうだと良いけど」

いつかそんな時代が来たら。

ため息をついて、彼女は舟を漕ぎ出す。
自分の村に帰るために。

争いが終わったと言うのなら
こんな所に用はない。

「西一族!!」

呼ばれて振り返った彼女に
彼が手を振る。


「いつか、また、な」


T.B.1962年 湖で出会った西一族と東一族