東一族の村の中を歩く。
すれ違う人は皆、黒髪に黒い瞳。東一族の特徴だ。
西一族は白色系の髪に瞳を持つという。
冷戦状態が続く今では姿を見た事がない者の方が多い。
噂に聞く狩りの一族。
同じ白色系の髪を持つ北一族と似ているのだろうか、と
成院はぼんやりと考える。
「成院!!」
突然の声に振り向くと、東一族の女性が立っている。
「晴子……久しぶり、元気だった?」
「元気だよ!!私はそれしか取り柄がないから。
成院は、どう?」
晴子が気遣うように言ってくる。
「あぁ、うん。なんとか」
弟と晴子はいつも成院を気に掛けてくれていた。
以前、成院が酷く落ち込んでいたときもそうだった。
「……そうだね、うん」
じゃあ。と晴子は持っていた荷物を抱えなおす。
「私、これから弟の面倒見なきゃ」
「わざわざありがとな」
「ううん、気にしないで、またね、成院!!」
そうして、晴子は一度立ち止まる。
「……ねぇ、成院」
きっとそうだと、成院は思っていた。
今、晴子が聞きたいことぐらい成院にも想像が付く。
「カイ、は……元気かな」
晴子は泣きそうだった。さっきまで笑っていたのに。
「戒院、は」
言い淀んだ成院に、晴子は首を振る。
「ごめん、私、何言っているんだろう。
……いいの成院。もう、いいんだ」
「だって、あいつ嘘つきだよ」
晴子の事嫌いになったとか。
他に気になる人が出来た、とか。
ずっと見ていた成院は知っている。
それも、これも、全部、嘘だ。
成院は笑顔で答える。
「戒院なら元気にしている。
きっとまた、晴子の家を訪ねていくよ」
晴子は言う。
「成院こそ、嘘つきじゃない。
そんなはずないよ。きっぱり別れたのだから」
やっと少し晴子が笑う。
「でも、ありがとう。
最近見かけなかったからちょっと気になっていたんだ。
元気にしているなら、いいよ、それだけで」
晴子は駆けていく。
成院はその姿を見送る。
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