TOBA-BLOG 別館

TOBA作品のための別館
オリジナル水辺ノ世界の作品を掲載

「西一族と涼」1

2014年04月04日 | T.B.2019年
 彼は、ひとりだけ、西一族の中で変わった容姿であった。

 特に、髪の色。

 西一族は、白色系の髪を有するはずなのに、彼だけは、真っ黒な髪色。
 西一族からすると、敵対する東一族の髪色なのである。

 彼は、気にもとめなかったが、よく思う者は、誰もいない。

 それでも、何事もなく。ここで彼が生きていけるのは
 西一族の村長の庇護と
 彼自身の、狩りの腕前があるからである。

 狩りで、毎回のように、獲物を仕留めてくるのだから、誰も口には出さない。

 彼の、狩りの班は、四人。
 この班を組んで、まだ、日が浅い。

 男が三人。
 女がひとり。

 互いに守り合うため、狩りは基本、班で行うようになっている。

 彼は、家の前で、弓矢と短刀を準備する。

 家と云っても、彼が生まれた家ではない。
 彼の身を守るために、村長が自身の屋敷で、彼を預かっている。

 しばらくして、彼は、広場に向かおうとする。

 が

「おい、涼(りょう)!」

 まだ、若い村長が屋敷から出てきて、彼を止める。

「出て行くときは、声をかけろ!」
 涼が振り返り、村長を見る。
 けれども、その視線は合わない。
「返事は」
 涼が、頷く。
「ほら」
 村長は、涼に矢尻を出す。
「予備に持って行け」
 渡しながら、村長はもう片方の手で、涼の肩を叩く。
「お前は小柄なんだから、気を付けろよ」
 涼は再度頷き、歩き出す。

「ずいぶんと、村長はお前びいきだな」

 広場で待ち構えていた、誠治(せいじ)が、云う。
 彼は、生粋の西一族で、白色系でも、銀に近い髪色をしている。
 涼の狩りの班の、班長を務める。

「お前が、怪我でもしたら、村長は泣くんじゃないか」
 誠治は、涼の肩を掴む。
 年は、近いはずなのに、誠治の方が一回り背が高い。
「やってみるか? ん?」
「やめてよ」
 誠治の横にいる紅葉(もみじ)が、狩りの荷物をまとめながら云う。
「これから、狩りに出るんだから、雰囲気悪くしないで」
 誠治は、紅葉を一瞥し、涼を掴んでいた手を離す。
「仕方ねえよ」
 誠治が、目を細めて云う。
「うちの班に、黒髪がいるんだから」
「だから、やめてって」
 紅葉は、誠治をにらむ。
 涼は、何も云わない。

「お待たせ」

 そこに、班のもうひとりがやって来る。
「悠也(ゆうや)、遅いぞ!」
「いつものことじゃない」
 誠治の言葉に、紅葉がため息をつく。
 悠也は、ちらりと涼を見て、云う。
「また、もめてんの?」
「こいつが、な」
「違うでしょ」
 紅葉は、再度ため息をつき、地図を取り出す。

 地図を広げる。

 その地図を中央に、四人は坐る。

「今日は、天候が悪くなりそうだけど」
 云いながら、紅葉は誠治を見る。
「どうする班長?」
 誠治は地図を見る。
「山間の川に向かってみるか?」
「そこは、よく怪我人が出る場所だよ」
「怪我人?」
 誠治が笑う。
「うちの班で、怪我人が出るかよ。な、悠也」
 悠也が云う。
「怪我人が出るのは、獲物が現れる証拠だ」
「足場も悪いんじゃない?」
 紅葉は、涼を見る。
「涼は、どう思う?」

「どこでも、……」

 そう答える涼は、地図を見ていない。

「おい」
 誠治が、声を荒げる。
「お前、ちゃんと地図見てんのかよ!」
 涼は、顔を上げ、云う。
「地理が、……よくわからない」
「ちっ」
 誠治が、立ち上がる。
「頭が悪いんだな」
 悠也と紅葉も立ち上がり、荷物を持つ。
「お前、足手まといになるなよ」

 涼も立ち上がる。

 四人は、山間の川に向かって、歩き出す。



NEXT
コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

西一族の村にて

2014年04月04日 | イラスト









「西一族の狩り」
コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする