「でかいな」
そうは云うものの、まだ、獲物の姿は確認できない。
誠治は、向こうのふたりを見る。
離れた岩陰の紅葉と、目が合う。
紅葉が頷く。
悠也が、云う。
「この気配、草食じゃないな。やり過ごすか?」
「数を見てからだ」
誠治が云う。
「肉食でも、単体なら、俺と悠也でやれる」
「単体なら、な」
「肉食の獲物なら、まず、風上の向こうふたりが狙われる」
続けて、誠治が云う。
「そこを、背後から仕留める」
誠治は、道具を握りしめる。
悠也は、目をこらす。
そのとき、
獲物が川に現れる。
川の向こう側ではなく、四人と同じ川岸。
岩が、死角を作り、姿が見えにくいが、熊だ。
「熊だぞ」
悠也が、誠治を見る。
「白じゃない。……やれる」
「でも、熊だって!」
「一匹だ。やれる!」
黒い熊は、臭いを嗅いでいる。
四人の存在に気付いている。
「……涼」
息をひそめ、紅葉は、涼を見る。
その顔に、不安がにじみ出ている。
涼と紅葉の、すぐ近くに、その熊がいる。
獲物は、臭いを嗅ぎながら、さらに、近付いてくる。
「走る?」
紅葉は云うが、足場が悪い。
石だらけで、早くは走れないだろう。
紅葉は、狩りの道具だけを持つ。
他の荷物は、棄てるしかない。
「待て」
涼が、あたりを見る。
「もう一匹だ」
「まさか!」
「向こうふたりは、気付いているか?」
「え?」
紅葉は、岩陰から見る。
誠治と悠也は、現れた熊を見ている。
そもそも、もう一匹の姿は、紅葉にも見えない。
「涼、もう一匹は」
「近い」
涼が云う。
「二匹とも、こちらに気付いている」
涼は、弓を持つ。
「ダメだよ」
紅葉が慌てる。
「二匹なら、逃げよう。熊だよ!?」
「紅葉」
涼が云う。
「俺が、弓を放つから、反対側に走れ」
「え、でも」
「同じ方向に走るわけにはいかない」
紅葉は、震える手で、狩りの道具を握りしめる。
頷く。
涼が、弓を構える。
獲物が、地面の臭いを嗅ぐ。
顔を上げる。
その瞬間、
涼が、矢を放つ。
紅葉は、走り出す。
矢は、獲物の喉元に刺さる。
驚いた獲物は、後ろに大きくのけぞる。
それを見て、誠治と悠也も飛び出してくる。
と
突然、誠治と悠也の背後から、もう一匹の熊が現れる。
ふたりに飛びかかる。
「後ろだ!」
涼の言葉に、ふたりは、慌てて地面を蹴る。
飛びかかってきた、もう一匹の熊を、避ける。
獲物は、そのまま、ふたりが隠れていた岩を、砕く。
「悠也、走れ!」
誠治の合図で、誠治と悠也は、風上へ走る。
涼の元へ。
すれ違いに、涼は、新たに現れた獲物へと向かう。
その獲物をすり抜け、走る。
獲物は、涼を追う。
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