TOBA-BLOG 別館

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オリジナル水辺ノ世界の作品を掲載

「辰樹と天樹」4

2015年06月05日 | T.B.2016年

 花の時期が終わり。

 雨の時期。

 辰樹と天樹は、東一族の村の外へと出る。

 雨は静かに降っている。
 非道いわけではない。
 けれども、視界が悪い。

 しばらく歩くと、砂漠地帯にたどり着く。
 ふたりは立ち止まる。

「近くに、地点はいくつある?」

 辰樹の問いに、天樹はあたりを見る。
 正確には、あたりを感じる。

「ふたつ、かな」
「雨の日は、見つかりにくいんだよなー」
「近くまでは判るけど、あとは手当たり次第やるしか」
「判ったよ」

 地点。

 それは、この砂漠地帯に住む、砂一族の魔法のこと。
 知らずに地点に差しかかると、魔法が作動し、命を奪われてしまう。
 いわゆる、地雷。

 砂一族は、東一族と敵対している。
 地点は、彼らから、東一族への牽制なのだ。
 けれども、無関係な旅人さえ巻き込んでしまう。

 この地点の解除は、辰樹と天樹の務めのひとつ。

 解除の方法は、簡単。
 意図的に、作動させるだけ。

「出来るだけ、地点を解除したいけど」
 天樹が云う。
「長居すると雨が強くなるぞ」

 雨は降り続ける。

 辰樹と天樹は歩き出す。

 しばらく、無言。

 やがて、辰樹が話し出す。

「なあ、天樹」
「何?」
「うちの母親が、務めを任されるなんてすごい、て、云っていたけど」
「うん」
「お前ん家はどう?」
「うち?」

 辰樹は、天樹を見る。

 ふたりが組んで、早二年。

 辰樹は、天樹を信頼している。

 が

 辰樹が知っているのは、天樹と云う名と、能力的なこと。
 いや
 ひょっとしたら、能力的なことも一部しか知らないのかもしれない。

 どこに住んでいるのか。
 親兄弟は誰なのか。
 ……知らないことだらけだ。

 何度か、ふと、訊いたことがあるが、いつもはぐらかされる。

 話すのが好きじゃないのか。
 何か事情があるのか。

「おい! 辰樹!」

 天樹が声を上げる。
 辰樹ははっとして、立ち止まる。
「何、考え事してる! 死にたいのか!」
 天樹は指を差す。
「そこに地点があるぞ」

「わっ」

 辰樹は冷や汗をかく。

 地点は、見えない。
 感覚で、魔法の痕跡を探し出さなければならない。

「危ないやつだな」
「悪い、兄さん」
「仲間が死にました、て、報告はしたくない」

 天樹は、弓を構える。
 矢を放つ。

 その矢に、地点が作動する。

 勢いで、濡れた砂が高く舞い上がる。

「危なっ」

 辰樹は、目を覆う。

 天樹が云う。

「今日は引き返そう」
 そう、空を見上げる。
「雨が非道くなってきた」
「本当だ」
 辰樹は頷く。

 天樹が訊く。

「何考え事してた?」
「何って」
「砂漠で危ないよ」
「うーん……」

 辰樹が云う。

「天樹」
「何?」
「今度、風呂行くか!」
「そんなこと考えてた!?」

 裸の付き合いで、何でも話してもらおう作戦。



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「辰樹と天樹」3

2015年05月29日 | T.B.2016年

「よっ! 天樹(あまき)!」

 今日も、にこやかにやってきた辰樹に、天樹は目を細める。

「辰樹、時間」
「おお! 今日も遊べちゃう日和だな!」
「だから、遊べちゃわない」
「ちょっと、お花見でも行ってみるか!」
「行かないよ……」
「今は、花が咲く時期だから、裏道も満開だろうなー!」

 辰樹は歩き出す。

「辰樹どこへ!」
「お、花、見ぃー」
「本当に?」
「市場で、だんごを準備済みだ!」
「だんごって」

 天樹は、辰樹を追いかける。

 東一族の畑が広がる地帯。
 今は、黄色の花が一面に咲いている。

 空には、花びらが舞っている。

「満開、満開!」
 辰樹が云う。
「この時期は、花見に限るな!」

 畑地帯の横に、いろんな花の木が並ぶ。

 黄色と桜色、そして、白色。

 先を行く辰樹は、ふと、振り返る。
 見ると、天樹は、ずいぶんと後ろで立ち止まっている。

「何だ」

 辰樹は、天樹の元へ引き返す。

 天樹の視線の先を見る。
 天樹は、木を見上げている。

「何見てる? 辛夷? 白木蓮?」
「あれは白木蓮だよ」
 辰樹が訊く。
「お前、花が好きなのか?」

 辰樹は、首を傾げる。

「俺じゃなくて、」
「あ。ひょっとして、母親?」

 天樹が何か云う前に、辰樹が云っている。

「うちの母親も、花が好きだからな!」
「うん、まあ。……そう」
「よかれと思って花なんか持っていったら、あんた何をしでかしたの! となる」

 謝罪扱い。

「それは、判るような気がする」
「そう云うなよー」
 うんうん、と、辰樹が頷く。
「天樹の母ちゃんはどうだ?」
「うちの話はいいよ」
「何だ、内緒か、兄さん!」
「やめろって」
「でも、花が好きなんだろ」

 辰樹が手を叩く。

「そうだ! 俺が、あの白い花をとってやるよ!」
「え?」
「天樹の母ちゃんに、持って行きな!」
「いや、」
「任せとけって!」
「自分でとるから、いいよ」
「なら、一緒に登るか!」
「……うん」

 辰樹と天樹は、木を登る。

 旧株で、かなりの高木。

「触れると花が落ちるから気を付けろ、辰樹」
「はいよ」
「あと、お前は背が高いから、あまり登るな」
 辰樹は、天樹を見て、にやりとする。
 どんどん、木を登る。
 ある程度登ると、上手いこと腰掛ける。

「絶景かなー!」

 辰樹は声を上げる。

 畑一帯と、市場や居住区もわずかに見える。

「うーん。この季節ならではの、景色!」
「そうだね」
「あ。俺ん家が見える」
「目がいいな、お前」
「お前の家はどこだ?」
「うちの話はいいよ」

 しばらく、辰樹と天樹は景色を眺める。
 風が吹き、花びらが舞う。

 と

 何かの音とにおいがして、天樹は辰樹を見る。

 辰樹が、だんごをほおばっている。

「……辰樹」
「うまいー!」

 辰樹は、仕合わせそうな顔をする。
 自分で用意しただんごを、辰樹は全部、平らげていた。



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「辰樹と天樹」2

2015年05月22日 | T.B.2016年

「親を呼んでるんだな」

 相方が云う。

「どこだ?」
 辰樹は、鳴き声を辿る。
「どこにいるんだー」
 あたりを見る。

 鳴き声が止む。

 辰樹は、草をかき分ける。

「鳴かなくなったな」
「こっちに、驚いたんだよ」
 相方が云う。
「ほら、そっちの草むらだ」

 辰樹は、相方が指差す方を見る。

 草をかき分ける。

 そこに、雛がいる。

「いた!」

 小さな雛。
 けれども、いずれ、大きな鳥となる。

 雛は、再度鳴き出す。

「やっぱりすごいな、お前!」
「それは、ありがとう」

 辰樹は、雛を見る。

「親鳥はどこだろう?」
「近くにいるさ」
「探してやるか」
「そうだね」
「…………」
「…………」
「すごいよな」
「何が?」
「食べちゃうんだぜ、西は」
「……ああ。急にその話」
「よく、食えるよな」

 東一族には、肉を食べる習慣がない。
 敵対する西一族は、狩りを行い、肉を食べるらしい。

 雛が鳴く。

 辰樹は、雛を抱える。

「…………」
「……辰樹?」
「…………」
「辰樹、どうした?」
「……かわいい」

 辰樹は、雛を見つめる。

 相方は、何だそりゃ、と、辰樹を見る。

「そりゃよかった」
「俺、飼い慣らそうかな」
「親鳥がいなかったら、ね」
「判ってるって」

 相方は、耳を澄ます。

「いるかな」
「どこか、木に巣があるんじゃないか」
「この時期は、どの巣にも雛がいっぱいだからな」

 そう云う時期。
 巣を間違えないようにしなければ。

「あ、ほら。あそこに巣がある」
 辰樹は、指を差す。
 相方は頷く。
「訊いてみるか」

 相方は枝を掴み、木を登る。
 巣の近くまで行く。

 辰樹はその様子を見る。
 しばらく待つ。

「違うって」
 相方が降りてくる。
「そうか」
「でも、向こうの巣の雛だろうって」
「向こうの巣か」

 相方は、辰樹から雛を受け取る。

 そのまま、別の木に登り、雛を巣に帰す。

「やっぱり、そうだって?」
「うん」

 東一族は、動物を供とする、が
 相方のように、動物と話せる力を持つのは、ごくわずか。

「お前がいてくれてよかったよ……」
「うん。親鳥が見つかってよかった」
「…………」

 相方は、辰樹をのぞき込む。

「……辰樹」
「なんだよ」
「泣くなよ?」
「泣かないし!」



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「辰樹と天樹」1

2015年05月15日 | T.B.2016年

「おお。いい天気!」

 辰樹(たつき)は、窓から空を見る。

 天気はいい。

 そして、

 いい感じで、お天道様も高い。

「遅刻だ!」

 うんうん、と、辰樹は頷いて、支度をする。
 家族にあいさつをし、いつもの集合場所へと向かう。

 市場などが集中する場所とは、反対方向。
 人は、ほとんどいない。
 草むらを抜け、畦道を歩く。

 東一族の辰樹は、

 毎日、課業や鍛錬をこなす。
 彼は能力を見込まれているので、特殊な務め、も、行う。
 時々、上の目を盗んでは、同じ年頃の子と遊びへ逃げ出す。
 時々、家の手伝い。

 さあ。
 今日は逃げ出す機会があるのか。

 確か、今日は務めがない。

 務めは、東一族に関わる、重要な仕事だ。
 それは、辰樹も判っている。
 さすがに、ふざけるわけにはいかない。

 その、務めがない。
 つまり、今日は何をやってもいい日、と云うことだ。

 うんうん、と、辰樹は頷く。

「おーい!」

 相方の姿を見つけ、辰樹は手を上げる。

「すまん、遅れた!」
「うん。いつものことだから」

 判ってます。

 相方も手を上げ、あいさつを返す。

「えーっと、今日の務めは」
「ないんだよな!」
「そうだね」
「なら、」
「解散してもいい?」
「何で!?」

 相方の言葉に驚いて、辰樹は、手が出る。

 別に、堅いやつ、とは、思わないけれど
 ちょっと付き合いが悪い相方。

 務めを果たすために、辰樹がはじめて組んだ相方だ。

 普通
 務めを果たすのに組む人数は、三人。
 けれども
 この相方と組むときは、ふたりだけ。
 ひとり、足りない状態。

 辰樹は、務めによって、組む相方も変わるが、
 この相方は、どうも、辰樹としか組んだことがないらしい。

 ちなみに、辰樹のいっこ上。

「そうかそうか。そんなだから、俺としか」
 辰樹は、ひとりで納得する。
「何の話?」
「だから俺としか、て、話」
「……単語が足りなすぎて、よく判らないや」

 でも、能力は間違いない相方。
 務めでは、何度も、辰樹は助けられている。

「今日のお天道様日和を見ろ!」
 辰樹は、空を指差す。
「お天道様日和……」
「ほら、北とかに遊びに行けちゃう日和だろ!」
「行けちゃわない」

 相方は、手を上げる。
 さようなら、の意。

「じゃあ、次の務め日に」
「えっ、ちょっと!」

 と、そこで、辰樹ははっとする。

「ちょっと待て!」
「何?」

 辰樹は耳を澄ます。

「何か鳴いてる」
「鳴いている?」

 相方も耳を澄ます。

 何かの鳴き声。

 まだ、幼いであろう、生き物の鳴き声。



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「天院と小夜子」6

2014年08月22日 | T.B.2016年

 小夜子は上を見て、天院を見る。
 けれども、天院と視線は合わない。

「天院様」

 天院も、上を見る。

 小夜子が訊く。
「何があるの?」

「ほら。木の上に、花が」
「花?」

 宗主の屋敷の庭は、きれいに手入れされている。
 花が多い。
 ふたりの目の前に立つ高木も、花を付けている。

「ごめんなさい」
 小夜子が云う。
「何?」
「見えなくて」

 と、小夜子が急に笑い出す。

「小夜子、なぜ笑うの?」
 天院は首を傾げる。
「ひょっとして、天院様は、花、好きなの?」

 少し考えて、天院は答える。
「嫌いじゃないよ」
 天院は、小夜子をのぞき込む。
「おかしい?」
「ううん。不思議だなと思って」

「……お詫びに」

 天院が云う。

「花をとるよ」

「え?」
 小夜子は驚く。
「あんなに高いのに、届かないよ」

 かなりの高木。

「届かない?」
 天院は首を傾げる。

 自分にとっては、たいした高さではない。

「無理はしない方が」
「無理じゃない」
 天院が云う。
「跳べば」

 そう云って、天院は、地面を蹴る。

 その高さは、高い。

 天院は枝を掴み、そのまま木を登る。
 花を掴む。
 ふたつ、とると、木を飛び降りる。

「天院様!」
 小夜子は、目を見開く。
「怪我をしたら大変!」
 小夜子は、自分がどれぐらいの力を持っているか、知らないのだろうけれど。
「しないよ」

 天院は、小夜子に、花をひとつ渡す。

「……ありがとう」

 小夜子は、花を受け取る。
 白い、花。

「いいにおい」
「うん」
「もうひとつは?」
 小夜子がふと訊く。
「お母様に?」
「え?」

 天院が訊き返す。

「なんでそう思うの?」
「天院様が花を好きなら、天院様のお母様もそうだろな、て」

「さあ?」

「また、……はぐらかすのね」

「怒る?」
「怒らないよ」
「小夜子、怒ってるみたい」

「怒らないけど、」

 小夜子は、受け取った花を見る。

「でも……」
「何?」
「ううん」
 小夜子は首を振る。
 その様子に、天院は小夜子をのぞき込む。
「小夜子、何?」

 小夜子が呟く。

「次は、……私だけ、とか」

 天院が訊く。

「何が?」
「花、を……」
「ああ」
 天院は頷く。
「いいよ?」

 そう云ってくれるんだ、小夜子。

 小夜子は、花を握りしめ、はにかんでいる。



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FOR「小夜子と天院」8