花の時期が終わり。
雨の時期。
辰樹と天樹は、東一族の村の外へと出る。
雨は静かに降っている。
非道いわけではない。
けれども、視界が悪い。
しばらく歩くと、砂漠地帯にたどり着く。
ふたりは立ち止まる。
「近くに、地点はいくつある?」
辰樹の問いに、天樹はあたりを見る。
正確には、あたりを感じる。
「ふたつ、かな」
「雨の日は、見つかりにくいんだよなー」
「近くまでは判るけど、あとは手当たり次第やるしか」
「判ったよ」
地点。
それは、この砂漠地帯に住む、砂一族の魔法のこと。
知らずに地点に差しかかると、魔法が作動し、命を奪われてしまう。
いわゆる、地雷。
砂一族は、東一族と敵対している。
地点は、彼らから、東一族への牽制なのだ。
けれども、無関係な旅人さえ巻き込んでしまう。
この地点の解除は、辰樹と天樹の務めのひとつ。
解除の方法は、簡単。
意図的に、作動させるだけ。
「出来るだけ、地点を解除したいけど」
天樹が云う。
「長居すると雨が強くなるぞ」
雨は降り続ける。
辰樹と天樹は歩き出す。
しばらく、無言。
やがて、辰樹が話し出す。
「なあ、天樹」
「何?」
「うちの母親が、務めを任されるなんてすごい、て、云っていたけど」
「うん」
「お前ん家はどう?」
「うち?」
辰樹は、天樹を見る。
ふたりが組んで、早二年。
辰樹は、天樹を信頼している。
が
辰樹が知っているのは、天樹と云う名と、能力的なこと。
いや
ひょっとしたら、能力的なことも一部しか知らないのかもしれない。
どこに住んでいるのか。
親兄弟は誰なのか。
……知らないことだらけだ。
何度か、ふと、訊いたことがあるが、いつもはぐらかされる。
話すのが好きじゃないのか。
何か事情があるのか。
「おい! 辰樹!」
天樹が声を上げる。
辰樹ははっとして、立ち止まる。
「何、考え事してる! 死にたいのか!」
天樹は指を差す。
「そこに地点があるぞ」
「わっ」
辰樹は冷や汗をかく。
地点は、見えない。
感覚で、魔法の痕跡を探し出さなければならない。
「危ないやつだな」
「悪い、兄さん」
「仲間が死にました、て、報告はしたくない」
天樹は、弓を構える。
矢を放つ。
その矢に、地点が作動する。
勢いで、濡れた砂が高く舞い上がる。
「危なっ」
辰樹は、目を覆う。
天樹が云う。
「今日は引き返そう」
そう、空を見上げる。
「雨が非道くなってきた」
「本当だ」
辰樹は頷く。
天樹が訊く。
「何考え事してた?」
「何って」
「砂漠で危ないよ」
「うーん……」
辰樹が云う。
「天樹」
「何?」
「今度、風呂行くか!」
「そんなこと考えてた!?」
裸の付き合いで、何でも話してもらおう作戦。
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