雨の日が続いている。
「うん。遅刻な予感!」
辰樹は、課業に行く準備をする。
外に出て、宗主の屋敷へと向かう。
課業も鍛錬も、宗主の屋敷内で行われる。
中に入ると、すでに課業ははじまっていた。
辰樹は、空いている席に坐る。
そして、周りを見る。
天樹は来ていない。
昔は来ていたような気がする。
でも、最近は、ここで会うことはない。
「辰樹!」
隣の席の者が、辰樹を呼ぶ。
「お前、遅刻しすぎだよ」
「そうかなぁ」
「毎、回、遅、刻!」
「えー」
「云いつけるぞ」
「陸院、勘弁!」
隣にいたのは、宗主の息子だった。
普通、
東一族の男性は「樹」の文字が名まえに入るが、
高位家系になると「院」の文字が入る。
陸院(りくいん)。
何とも呼びにくい名まえ。
「てか、呼び捨てにするなよ」
「悪い」
辰樹は、手をひらひらさせる。
「つい」
陸院が云う。
「お前、この前の務め、ちゃんと出来なかったろ」
「そりゃあ」
辰樹は窓を指差す。
「雨が非道くて。地点見つからず」
「云い訳かよ」
陸院が少し考えて、云う。
「あいつも一緒だった?」
「あいつ?」
「あいつだよ」
「ああ、」
陸院は、天樹のことを云っている。
「務めなんだから、一緒だったよ」
「そうか。いい気味」
陸院はにやりとする。
「何、仲悪いの?」
「悪い! あいつとは仲悪い!」
「ひょっとして」
辰樹が云う。
「あいつの方が能力的に上で、妬んでる?」
「違っ!」
陸院は、顔を真っ赤にさせる。
「宗主の息子なのに、あいつより弱いから?」
「何を云う!」
陸院が云う。
「あいつより弱いって、どこに証拠が!」
「うーん……」
辰樹もいろんな相方と組んだが、一番能力があるのは天樹だ。
間違いない。
陸院が云う。
「だって。あいつが鍛錬で勝ったのを見たことある?」
「鍛錬で?」
「鍛錬の試合」
「……そう云えば、ないね」
「だろ!」
鍛錬に参加する天樹は、勝つことがない。
天樹はいつも、負けている。
でも、辰樹は判る。
わざとだって。
「あいつ、俺らの世代では一番だと思ったけど」
陸院は、席に坐ったまま、地団駄を踏む。
「何とでも云うがいいさ!」
陸院は、机を叩く。
「この前の務め、ちゃんと出来なかったから、あいつはお仕置きだからね!」
「お仕置き?」
辰樹が首を傾げる。
「誰が?」
「あいつだよ」
「誰から?」
陸院は、再度、にやりとする。
それ以上、何も云わない。
辰樹は首を傾げる。
まあ、いくら宗主の息子の陸院が手を出したところで、
天樹が負けるはずがない。
気にすることではない。
辰樹は、窓の外を見る。
雨が降っている。
けれども、
もうすぐ、雨の時期も終わる。
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