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「辰樹と天樹」5

2015年06月12日 | T.B.2016年

 雨の日が続いている。

「うん。遅刻な予感!」

 辰樹は、課業に行く準備をする。
 外に出て、宗主の屋敷へと向かう。

 課業も鍛錬も、宗主の屋敷内で行われる。

 中に入ると、すでに課業ははじまっていた。

 辰樹は、空いている席に坐る。

 そして、周りを見る。

 天樹は来ていない。
 昔は来ていたような気がする。
 でも、最近は、ここで会うことはない。

「辰樹!」
 隣の席の者が、辰樹を呼ぶ。
「お前、遅刻しすぎだよ」
「そうかなぁ」
「毎、回、遅、刻!」
「えー」
「云いつけるぞ」
「陸院、勘弁!」

 隣にいたのは、宗主の息子だった。

 普通、
 東一族の男性は「樹」の文字が名まえに入るが、
 高位家系になると「院」の文字が入る。

 陸院(りくいん)。

 何とも呼びにくい名まえ。

「てか、呼び捨てにするなよ」
「悪い」
 辰樹は、手をひらひらさせる。
「つい」

 陸院が云う。

「お前、この前の務め、ちゃんと出来なかったろ」
「そりゃあ」
 辰樹は窓を指差す。
「雨が非道くて。地点見つからず」
「云い訳かよ」

 陸院が少し考えて、云う。

「あいつも一緒だった?」
「あいつ?」
「あいつだよ」
「ああ、」

 陸院は、天樹のことを云っている。

「務めなんだから、一緒だったよ」
「そうか。いい気味」

 陸院はにやりとする。

「何、仲悪いの?」
「悪い! あいつとは仲悪い!」
「ひょっとして」
 辰樹が云う。
「あいつの方が能力的に上で、妬んでる?」
「違っ!」

 陸院は、顔を真っ赤にさせる。

「宗主の息子なのに、あいつより弱いから?」
「何を云う!」
 陸院が云う。
「あいつより弱いって、どこに証拠が!」
「うーん……」

 辰樹もいろんな相方と組んだが、一番能力があるのは天樹だ。
 間違いない。

 陸院が云う。
「だって。あいつが鍛錬で勝ったのを見たことある?」
「鍛錬で?」
「鍛錬の試合」
「……そう云えば、ないね」
「だろ!」

 鍛錬に参加する天樹は、勝つことがない。
 天樹はいつも、負けている。

 でも、辰樹は判る。

 わざとだって。

「あいつ、俺らの世代では一番だと思ったけど」

 陸院は、席に坐ったまま、地団駄を踏む。

「何とでも云うがいいさ!」
 陸院は、机を叩く。
「この前の務め、ちゃんと出来なかったから、あいつはお仕置きだからね!」
「お仕置き?」

 辰樹が首を傾げる。

「誰が?」
「あいつだよ」
「誰から?」

 陸院は、再度、にやりとする。

 それ以上、何も云わない。

 辰樹は首を傾げる。

 まあ、いくら宗主の息子の陸院が手を出したところで、
 天樹が負けるはずがない。

 気にすることではない。

 辰樹は、窓の外を見る。
 雨が降っている。

 けれども、

 もうすぐ、雨の時期も終わる。



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