少しだけ、日差しが緩くなる。
村全体の木が、紅葉をはじめる。
「大変だ、天樹!」
「何が」
いつものように遅刻して、辰樹がやって来る。
「大変だよ!」
「だから、何が」
「時期はずれの花だ!」
辰樹と天樹は、いつだったか、ふたりで登った木のところへやって来る。
「ほら!」
「本当だ……」
花の咲く時期ではないのに、高木に、白い花が咲いている。
ほんの、数輪。
「このまま寒くなるはずだったのが」
天樹が云う。
「ここ最近、暖かさが戻ってきて。……それで咲いたんだな」
「これ、すごいよな!」
「うん」
「記念に、花をとろう」
辰樹は、木を登り出す。
「気を付けろ」
天樹は、木の下で声をかける。
「天樹もいるー?」
「俺はいいよ」
辰樹は、ひとつだけ花をとり、そのまま飛び降りる。
「どうだ、これ」
「うん」
「時期はずれ記念」
「どう云う記念?」
辰樹は笑う。
「天樹も、時期はずれ記念に、母ちゃんに持って行ってやれよ」
「……いいよ」
天樹が云う。
「記念、て、よく判らないし」
「持って行ってやれば、喜ぶって!」
辰樹は、天樹の肩を叩く。
天樹は首を振り、訊く。
「辰樹の母さんは、喜ぶのか」
「もちろん」
辰樹が云う。
「一瞬、謝罪の花とか思われるけど!」
「……へえ」
「でも、やっぱりそうなんだよ」
「何が」
「女の人は、花が好きなんだって!」
「そうとは、限らないだろうけど」
「だよな!」
辰樹が笑う。
「兄さんは男だけど、花を好きだもんな!」
辰樹は、いちいち声がでかい。
満足そうに、花を持ち帰ろうとする。
「辰樹!」
「何ー」
天樹が云う。
「花を置いたら、戻って来いよ!」
……そう云えば、務めはこれからでした。
数日後。
辰樹は、その高木の近くを通りかかる。
「まだ、花はあるかなー?」
辰樹は、木を見上げる。
高木には、まだ、数輪の花。
時期はずれの、白い花。
「……あれ?」
だが
「減ってるな」
辰樹は、花の数を数える。
天樹と見たときより、ふたつ少ない。
「…………」
辰樹は首を傾げる。
が
「そうか!」
すぐに、手を叩く。
「天樹、やっぱり花をとったんだな」
誰のためにかは知らないが。
きっと、天樹も誰かに渡したのだろう。
うんうん、と、辰樹は頷いた。
NEXT