鶴見俊輔「思い出袋」(岩波新書)
一月一話を集めたもの。その中で強烈に心に響いたことばがこれだった。I am proud of you(私はあなたを誇りに思う)。鶴見が学生のころ、ボストン近郊のケンブリッジに下宿していた家の女主人に、何度かいわれたことばがこれだった。鶴見はこのことばを何人かの人にいいたい場面があったにもかかわらず、ついぞ口にせずにいままで来てしまったという。
一人は永井道雄。三木武夫内閣で民間人ながら文部大臣に抜擢された鶴見の親友だった。つぎに松本サリン事件で一時期犯人の濡れ衣を着せられた河野義行氏。のちに事件がオウム真理教の仕業だったことが判明し、河野氏は無罪になったが、その後の氏の行動がりっぱだった。オウム真理教団に対して破防法が適用されることに断固、反対した。オウム信者にも人権があることを主張した。河野氏はみずからが有形無形の被害に遭い、奥さまが後遺症に苦しんでおられた時期だったはずだ。それでも理に反することには毅然として反対された。I am proud of you.と鶴見はいいたかったが、面識がなく、いう機会がなかったという。
3人目、いや3組目というべきか、2002年ごろだったかイラクを米国が攻め込んでいたとき、若い日本人記者やボランティア活動家、研究家がイラク国内で人質にされた。どうにか釈放されて帰国したとき、多くの日本人が激しい非難を浴びせた。「自己責任」「反日」などということばが飛び交ったとき、米国のコリン・パウエル国務長官(当時)が「日本人はこれらの人たちを誇りに思うべきだ」と発言し、3人を盛んに批判する日本人を諭した。鶴見はこれら3人とパウエル国務長官にI am proud of you.といいたかったという。
いいたくても、なぜかいいにくいことばだ。日本語として日本文化に馴染まないのかもしれない。それに気づかせてくれた鶴見俊輔に心からの「I am proud of you」のことばを贈りたい。
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