兵庫県から岡山県との県境を越えた日生(ひなせ)まで小女子(こうなご)を買いに行った。イカナゴくぎ煮という名前で売っていた。神戸あたりから兵庫県の西の端までの瀬戸内海沿岸地域では、毎年この時期になると小女子を食べる。店にも並ぶが各家庭で独自の味のものをつくっていた。いまでは生のイカナゴに垂れをつけて小女子セットとして売っている。セットなっている生のイカナゴと垂れを鍋に入れて煮込めば、だれでも手軽におなじ味の小女子ができあがる。自家で消費する分だけでなく多めにつくって隣近所、友人知人に配布する家庭も多い。瀬戸内沿岸地域では春の風物詩になっている。
いっぽうこの地域の人たちはマグロを食べない。マグロにかぎらずカツオ、シャケといった赤身の魚を嫌うようだ。瀬戸内海でとれる魚は鯛、蛸、穴子に代表される。どれもうまい。赤身の魚は遠くから運ばれてくる。むかしはそれだけ鮮度が落ちた。
マグロは江戸時代には大量にとれた時期があった。そのころには鉈でぶった切って売り、買ったほうは煮るか焼くかして食べた。江戸では刺身にしても食べていた。1643年の記録にすでにマグロの刺身が登場し、1830年ごろにはもてはやされる食べものになっている(飯野亮一「居酒屋の誕生」)。江戸前でとれて新鮮なまま食用にできたからこそ刺身になった。
そのころからの食文化が今にまで及んでいる。平成24年、1世帯あたりのマグロ購入金額は東京都区部が8068円、京都が3025円、大阪が4354円(総務省)になっている。あきらかに東高西低だ。
関西で生まれ育った私はマグロについては遅咲きの部類だが、いまでは関東人に負けないマグロ好きになっている。今夜もマグロの刺身で一杯やりたいなあ
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