新・日曜炭焼き人の日記

炭遊舎のホームページで書いていた「日曜炭焼き人の日記」を引きついで書いていきます。

リビアのカダフィについての真実

2016年07月08日 | 日記

 そうだったのか、とあとになって思うことがときどきある。5年まえにリビアのカダフィ大佐がNATO連合軍による空爆によって殺害されたとき、違和感を抱いた。あのときのメディアの論調は、独裁者カダフィを倒し、リビアにも「アラブの春」が来たというものだった。メディアは「独裁者vs民主化を求める市民」という構図をはっきりと描いて見せていた。遠い国のことだし、ほかの立場からの情報が入ってこないので、それを読んだり見たりした人たちはそんなものかと思ったことだろう。
 私は必要があってカダフィ大佐についてくわしく調べたことがあった。1990年ごろのことだった。すでにリビアの政権の座に長くついていたにもかかわらず、大佐は本来の遊牧民族と変わらないテント生活をしていた。長い間ひとりの人物が権力の中枢に留まっているという意味では独裁者かもしれないが、イラクのサダム・フセインのような、またアフリカの多くの国に見られるような私腹を肥やすことばかりに腐心している独裁者とはまったく異なっていた。じっと静かに国民のことを考える独裁者のイメージだった。大佐以外に称号が浮かんでこないことでも権力を求めず実質的政治をしようという姿勢をうかがい知れる。
 ところがいつごろからだったか、アメリカ軍が、あるいはNATO連合軍がカダフィ大佐の命を狙っているという報道が出るようになった。そして6年まえにカダフィ大佐の血まみれの姿が映し出されたとき、世界情勢にくわしい職場の同僚とも「リビアはうまく行っていると思っていたのに・・」と言い合ったものだった。ひとりの人物による長期政権がつづくと腐敗していくものなのか、と思わないでもなかったので、そのままにしてしまった。
 このたび堤未果「政府は必ず嘘をつく 増補版」(角川新書)を読み、あのときの私の違和感が間違っていなかったことを確信した。堤未果氏は、一群のグローバル企業が力をもちすぎ、アメリカ政府を動かし、世界経済を自分たちの都合がよい方向へとけん引していると厳しい批判を展開している。
 以下、上記の本を引用しながら書いていく。まず「カダフィ大佐の反政府軍に対する容赦なき弾圧から人民を救うために、あらゆる措置を容認する」という国連安保理決議があった。しかし下線部が真実かどうかがあやしい。日本でも繰り返し流されていた「カダフィによる一般市民への無差別攻撃」の映像はすでにユーチューブから削除されているらしい。リビアは高学歴、高福祉の国であり、アフリカ大陸でもっとも生活水準が高かった。教育、医療はタダで受けられる。カダフィはすべての国民にとって家を持つことは人権だと考え、新婚夫婦には5万米ドルの補助金を与え、失業者には無料住宅を提供した。カダフィが政権につくまえは10パーセントだった識字率がいまは90パーセントを超えている。42年間、政権が維持されてきた理由がこのへんにあった。そしてさまざまな政策を可能にしてきたのがアフリカ最大の埋蔵量を誇る石油資源だった。
 2011年7月NATO軍の爆撃がひどくなったとき、その爆撃に抗議して全リビア国民の3分の1がトリポリの緑の広場に集まった。反政府軍として流された映像はじつは反NATO 軍だったかもしれない。そのようなニュースの捏造を西側メディアがするようになってしまった。一部のグローバル企業、コーポラティズムに政治が左右され、メディアまでが買収される。そのグローバル企業群の利益にならない報道はゆがめられてしまう。
 グローバル企業郡がいちばん問題にしたのは、以下の点だったようだ。「リビアは144トンもの金を保有していました。カダフィはその金を原資に、ドルやユーロに対抗するアフリカとアラブの統一通貨・ディナの発行を計画していたのです。そこにはIMFや世界銀行の介入から自由になる〈アフリカ通貨基金〉と〈アフリカ中央銀行〉の創設も含まれていました」。これはアフリカが経済的に自立していくためのすばらしいプロセスであり、卓越した識見でもある。カダフィはこのようなことを念頭に置いてリビアを率いてきた。
 ところが、自分たちの利益を最大限に追求しようとする西側のグローバル企業にとって、カダフィ大佐の識見は目の上のこぶだった。西側にとってアフリカの国々は搾取する対象でしかない。石油取引の決済がドルからディナに変われば、現在の基軸通貨であるドルやユーロの大暴落は避けられない。アフリカ、アラブの統一通貨の実現などもってのほかだった。
 さて、あとは原書を読んでいただきたい。恐ろしいことがたくさん書いてある。
 堤未果「政府は必ず嘘をつく 増補版」角川新書