韓国人が好きな食べ物に、「김밥(キムパプ)」がある。
日本ののり巻きや太巻きに似ているが、キュウリ、お新香などの単品で作らず、また魚系のおかずは入れずに作るのが、日本ののり巻きと違うのだ。
お酢のきいたご飯の上に、ほうれん草、タクワン、キュウリ、ハム、人参、ひき肉など、いろんな味付けしたおかずをのせ、のりで巻き、胡麻油を塗って、最後に胡麻をふって、一丁上がりとなる。
韓国では、どこに行っても、この김밥(キムパプ)を売っている店が見つかるほど、韓国人に人気の食べ物だ。
夫の仕事で来日して1年となる奥さんの話によると、小学5年生の子供を持つ彼女は、子供の将来を考えて、東京にある韓国学校ではなく、日本の学校で勉強させることにしたが、なかなか慣れるまで苦労していた。
初めて子供が遠足に行くという話を聞いた彼女は、娘のために、張り切って김밥(キムパプ)を作る準備をした。
そして当日、朝早くから、前日に味付けしていたいろんなおかずを使って腕をふるい、30本ほどの김밥(キムパプ)を作った。
娘のお弁当とは別に、先生の分まで用意して、「ご飯を食べるときに、先生へ渡すように」と言って、娘を送り出した。
遠足から帰ってきた娘から、「先生にお弁当を渡したけど、先生がびっくりして、それを受取ってくれなかったんだよ。」と聞いた彼女は、「せっかく誠意を込めて作ったお弁当をなんで受取ってくれないんだろう?」「なんか失礼なことでもしたのかしら?」といろいろと想像を膨らまして、親子そろって話している時、担任の先生から一本の電話が入った。
「本日は、わざわざお弁当を作ってくださってありがとうございました。日本の学校では、保護者からこういうものを受取るのは禁じられているんです。お母様のお気持ちはありがたいのですが、ご理解下さいませ」
彼女は信じられなかった。
子供の担任の先生のためにお弁当を用意してあげただけなのに、まるでワイロを渡そうとした親と思われたようで、「心外」という言葉が口から出た。
韓国では、遠足の時に、先生の食事は、学生の保護者会で用意してくれるのが一般的だ。
各クラスの班長や副班長の親が中心となった保護者会で、何人かの親が、子供と一緒に遠足について行く。
昼ご飯の時には、保護者が用意してきたお弁当やお酒、おつまみなどを出されて、先生は食べるだけ、普段から子供を教える苦労に少しでも恩返しできればという気持ちで、子供の親が行なうおもてなしの行動だ。
日本人からしてみれば、「先生のためお弁当を用意することは、自分の子供を特別扱いしてもらいたいという気持ちの表れだ」と受取られるかもしれないが、韓国では、逆にそれをしないほうが先生に対する失礼な行動となる。