1970年代、韓国に行くと、海岸などでは、<刺身>が、日本語のまま通じた。
もともと中華文明圏の朝鮮には、魚を生食する習慣がなかった。
刺身は、日本文化から来ている。
したがって、刺身という日本語のまま、通用していたのが、終戦後も変わらないままだったのである。
当局は、日本語の言い換えを作るに当たって、韓国語で読み替えて、チャシン(刺身)というわけにはいかず、刺身には、フェー(膾)という訳語を当てることになった。
膾とは、ナマスのことである。
日本では、ナマスというと、植物の酢の物をさすが、もともと膾という字は、偏にニクヅキが付いているくらいだから、動物性のナマスを意味している。
実際、朝鮮では、魚は生では食べなかったが、肉はユッケ(육회)など、生でも食べる。
육회(ユッケは)、漢字で書けば、肉膾となる。
どういうわけか、韓国語もフランス語のようにリエゾンして<H>の音が消えてしまい、発音は、ユッケに近いものになる。
文字どおり、ニクナマスである。
そこで、この膾という字を、韓国語で読んで、刺身を<フェー>と呼ぶことに決めたのである。
1970年代には、まだ、<膾・フェー>と、<刺身>の葛藤が続いていたが、最近は、決着がついたようだ。
<刺身>世代が減っていくとともに、<膾>が優勢になった。
メニューなどでは、ハングルで<회・フェー>と書いてあるのが、一般的になったのだ。
海水浴場などでは、海岸に<회집・フェーチプ>と書いたビーチハウスが、並んでいたりする。