内藤が大差判定で亀田を破り、初防衛に成功した。
「キャリアの浅い、ランク下位の挑戦者を危なげなく下した」、
文章で書けばただそれだけのことなのだが、この試合には
尋常でないことがあまりに多かった。
試合内容に関しては、どう書いていいのか正直分からない。
お互い「負けられない」という気持ちが先走りすぎたのか、
荒れ気味のファイトとなってしまった。そのせいかどうかは
分からないが、僕の文章も乱れ気味になってしまうことを
許していただきたい。
まず会場の雰囲気。従来の世界戦とは明らかに違う、怒号にも似た
内藤への歓声。平日ということもあり決して満員とは行かなかったが、
物凄い声援の大きさだ。
数々の非礼な振る舞いから「憎まれっ子」となった亀田が
無様にブチのめされる姿を期待するファン。そして内藤自身も
それを「国民の期待」とまで言って自らの責任感を強めた。
そういったことが重なり、内藤には明らかに力みがあった。
1ラウンド、ジャブも出さずにガードを固めて前進する亀田。
サークリングし、自在に手を出していく内藤。亀田は接近戦を
仕掛けたいのだろうが、突っ込み過ぎていい距離が取れない。
そして内藤はクリンチ。早くも「上手く行かないな」とばかりに
首をひねる亀田。
内藤とすれば、乱戦、そしてバッティングは避けたかったのかも
しれない。クリンチ際に、亀田の頭を抱え込む場面が多い。
3ラウンド早々、内藤が一気に攻めて出る。しかし亀田はなかなか
打たれ強いようだ。平然と前に出てくる。亀田のパンチも時折
当たっており、思ったよりはやるなあ、という印象。しかし
手数が少なすぎる。またこのラウンドで、内藤が右目上をカット。
これはパンチによるものと判断された。もともとカットしやすい
内藤だけに、これは心配だ。
4ラウンド。大きなパンチを立て続けに3発ミスする内藤。
左手で亀田の頭を押さえつけ、レフェリーに注意もされた。
執拗な亀田の前進に、少し手を焼いているような印象だ。
ただし、パンチはコンスタントに上手く当てている。
7ラウンド、出血が激しくなりドクターチェックを受ける内藤が、
亀田のバッティングをアピールする。頭から突っ込んでくる亀田に、
相当苛立っているようだ。また亀田の方も、一発いいパンチを
当ててもすぐにクリンチで攻撃を寸断されることで、苛立ちを
深めていった。
8ラウンド終了時の公開採点では、ジャッジ2人が6ポイント差、
1人が4ポイント差で内藤。インターバル間にテレビ画面に映し出された
亀田の目は虚ろ。試合開始当初とは全く異なっている。恐らく、
この辺りで勝ち目が薄いことを悟ったのではないだろうか。
9ラウンドから、いよいよ亀田のラフプレーが目立つようになる。
クリンチ際に内藤を投げ飛ばし、あろうことかガッツポーズまで
見せる亀田。再びもみあって倒れた内藤にヘッドロック。
さすがに切れた内藤が亀田を小突いてしまい、レフェリーはここで
内藤に1点の減点を与えた。
内藤とすれば、「どうして亀田には減点しないんだ」という思いが
あったに違いない。もし亀田が内藤を投げ飛ばした時点で減点が
与えられていたら、その後の大荒れの展開はなかったかもしれない。
そんな荒れ模様の中でも内藤が的確にヒットを重ね、迎えた12ラウンド。
内藤を投げ倒したとして亀田についに減点1。そしてその直後、
今度は内藤を担ぎ上げて投げ飛ばそうとする亀田。
この悪質な反則に対し、さらに2ポイントの減点。1ラウンドに
3ポイントも減点されるなど、滅多にないことだ。その後も2~3度
両者がもつれあって倒れるなど、荒れに荒れた最終ラウンドとなった。
判定を聞いても、内藤に笑顔はない。判定にしろKOにしろ、
きれいに勝ちたかったという気持ちがあるのだろう。
振り返ってみると、若さと勢いのみが取り柄の挑戦者の突進に
手を焼きつつも、ベテランらしい老獪さでその勢いを封じた試合
だった、と言えるだろうか。両者の間にあったキャリア、技術の差は
明白だった。
亀田のパンチも当たっていたし、見た目には健闘したようにも
思えるが、最終ラウンドの反則も含め、ボクサーとして世界戦に
上がれるような完成度の選手ではなかった。
ただし、その肉体的タフネスや左フックのタイミングなどには
光るものがあった。それでも全体にいびつな印象しか持てなかったのは、
いいキャリアを積んでこなかったせいだ。例えばその辺の4回戦の
選手でも、「いいものを持っている」と言われることはあるだろう。
それをそのまま世界戦のリングに上げてしまったような印象なのだ。
あまりにも自己中心的な、独りよがりのボクシング。変な言い方だが、
ボクシングとは対戦相手とのコミュニケーションでもある。
リング上で相手とやり取りをし、リズムやタイミングを読む。
そして時には、相手の嫌がることをしてリズムを崩す。
自分のいいように戦える相手とばかり戦い、そういったことを学んで
来なかったため、自分の思うように行かないとキレてしまったり、
ただ前に出ることしか出来なくなってしまうのだ。
今回内藤が苦戦したように見えたとしたら、それはこの
「コミュニケーション」が通じなかったせいだろう。
フェイントにも全く反応せず、ただ突っ込んでくる亀田。
「リング上の会話」がまるでないのだ。内藤が苛立つのも
無理はない。恐らく内藤は、「何か気持ち悪いなあ」と
思いながら戦っていたに違いない。
試合中のコミュニケーションが濃密であればあるほど、
試合後の選手たちはお互いの健闘を称え合えるものなのだと思う。
この試合でそのようなシーンがなかったのは、当然と言える。
厳しい言い方をすれば、これは凡戦だった。そしてそれは、
両者のボクサーとしての「ステージ」が、あまりに違いすぎた
せいではないかと思う。亀田には悪いが、いくらなんでもここまで
下手糞なボクサーだとは思わなかった。これでは噛み合うはずもない。
やはり全くまとまりのない文章になってしまったが、とにかく
内藤がベルトを守ったこと。そしてこの狂乱の日々がようやく
終わったことで、内藤ファンの僕としてはホッとしたと
いうのが正直な気持ちだ。そして内藤にも、ゆっくり休んでもらいたい。
この数ヶ月、精神的にも色々疲れたことだろう。
一方の亀田だが、まずは「まっとうな」キャリアを積むことから
やり直すべきだろう。今回の惨敗は、本人というよりも
本人を勘違いさせてしまった周囲に責任があるはずだ。
追記:一日経って、試合を見返してみた。若干堅いながらも、
内藤は本当に上手く戦っている。まさに、キャリアと
技術の差を見せつけるかのような戦い方だ。
個人的には、ボクシングにおいて最も明白に能力の優劣を
示すのは、大差判定による勝利だと思っている。「全く通用
しなかった」ということで、負けた選手に与える無力感や
落胆も、最も大きいのではないだろうか。
また、見た目のスタイルは違うが、内藤は元世界スーパー・
ウェルター級王者の輪島功一氏に似ているとも感じた。
変則であることと、柔らかすぎるほど柔らかい語り口。
北海道出身であること、遅咲きのチャンピオンであること
(輪島氏は28歳で王座獲得、30代で2度の返り咲き)も共通点だ。
「キャリアの浅い、ランク下位の挑戦者を危なげなく下した」、
文章で書けばただそれだけのことなのだが、この試合には
尋常でないことがあまりに多かった。
試合内容に関しては、どう書いていいのか正直分からない。
お互い「負けられない」という気持ちが先走りすぎたのか、
荒れ気味のファイトとなってしまった。そのせいかどうかは
分からないが、僕の文章も乱れ気味になってしまうことを
許していただきたい。
まず会場の雰囲気。従来の世界戦とは明らかに違う、怒号にも似た
内藤への歓声。平日ということもあり決して満員とは行かなかったが、
物凄い声援の大きさだ。
数々の非礼な振る舞いから「憎まれっ子」となった亀田が
無様にブチのめされる姿を期待するファン。そして内藤自身も
それを「国民の期待」とまで言って自らの責任感を強めた。
そういったことが重なり、内藤には明らかに力みがあった。
1ラウンド、ジャブも出さずにガードを固めて前進する亀田。
サークリングし、自在に手を出していく内藤。亀田は接近戦を
仕掛けたいのだろうが、突っ込み過ぎていい距離が取れない。
そして内藤はクリンチ。早くも「上手く行かないな」とばかりに
首をひねる亀田。
内藤とすれば、乱戦、そしてバッティングは避けたかったのかも
しれない。クリンチ際に、亀田の頭を抱え込む場面が多い。
3ラウンド早々、内藤が一気に攻めて出る。しかし亀田はなかなか
打たれ強いようだ。平然と前に出てくる。亀田のパンチも時折
当たっており、思ったよりはやるなあ、という印象。しかし
手数が少なすぎる。またこのラウンドで、内藤が右目上をカット。
これはパンチによるものと判断された。もともとカットしやすい
内藤だけに、これは心配だ。
4ラウンド。大きなパンチを立て続けに3発ミスする内藤。
左手で亀田の頭を押さえつけ、レフェリーに注意もされた。
執拗な亀田の前進に、少し手を焼いているような印象だ。
ただし、パンチはコンスタントに上手く当てている。
7ラウンド、出血が激しくなりドクターチェックを受ける内藤が、
亀田のバッティングをアピールする。頭から突っ込んでくる亀田に、
相当苛立っているようだ。また亀田の方も、一発いいパンチを
当ててもすぐにクリンチで攻撃を寸断されることで、苛立ちを
深めていった。
8ラウンド終了時の公開採点では、ジャッジ2人が6ポイント差、
1人が4ポイント差で内藤。インターバル間にテレビ画面に映し出された
亀田の目は虚ろ。試合開始当初とは全く異なっている。恐らく、
この辺りで勝ち目が薄いことを悟ったのではないだろうか。
9ラウンドから、いよいよ亀田のラフプレーが目立つようになる。
クリンチ際に内藤を投げ飛ばし、あろうことかガッツポーズまで
見せる亀田。再びもみあって倒れた内藤にヘッドロック。
さすがに切れた内藤が亀田を小突いてしまい、レフェリーはここで
内藤に1点の減点を与えた。
内藤とすれば、「どうして亀田には減点しないんだ」という思いが
あったに違いない。もし亀田が内藤を投げ飛ばした時点で減点が
与えられていたら、その後の大荒れの展開はなかったかもしれない。
そんな荒れ模様の中でも内藤が的確にヒットを重ね、迎えた12ラウンド。
内藤を投げ倒したとして亀田についに減点1。そしてその直後、
今度は内藤を担ぎ上げて投げ飛ばそうとする亀田。
この悪質な反則に対し、さらに2ポイントの減点。1ラウンドに
3ポイントも減点されるなど、滅多にないことだ。その後も2~3度
両者がもつれあって倒れるなど、荒れに荒れた最終ラウンドとなった。
判定を聞いても、内藤に笑顔はない。判定にしろKOにしろ、
きれいに勝ちたかったという気持ちがあるのだろう。
振り返ってみると、若さと勢いのみが取り柄の挑戦者の突進に
手を焼きつつも、ベテランらしい老獪さでその勢いを封じた試合
だった、と言えるだろうか。両者の間にあったキャリア、技術の差は
明白だった。
亀田のパンチも当たっていたし、見た目には健闘したようにも
思えるが、最終ラウンドの反則も含め、ボクサーとして世界戦に
上がれるような完成度の選手ではなかった。
ただし、その肉体的タフネスや左フックのタイミングなどには
光るものがあった。それでも全体にいびつな印象しか持てなかったのは、
いいキャリアを積んでこなかったせいだ。例えばその辺の4回戦の
選手でも、「いいものを持っている」と言われることはあるだろう。
それをそのまま世界戦のリングに上げてしまったような印象なのだ。
あまりにも自己中心的な、独りよがりのボクシング。変な言い方だが、
ボクシングとは対戦相手とのコミュニケーションでもある。
リング上で相手とやり取りをし、リズムやタイミングを読む。
そして時には、相手の嫌がることをしてリズムを崩す。
自分のいいように戦える相手とばかり戦い、そういったことを学んで
来なかったため、自分の思うように行かないとキレてしまったり、
ただ前に出ることしか出来なくなってしまうのだ。
今回内藤が苦戦したように見えたとしたら、それはこの
「コミュニケーション」が通じなかったせいだろう。
フェイントにも全く反応せず、ただ突っ込んでくる亀田。
「リング上の会話」がまるでないのだ。内藤が苛立つのも
無理はない。恐らく内藤は、「何か気持ち悪いなあ」と
思いながら戦っていたに違いない。
試合中のコミュニケーションが濃密であればあるほど、
試合後の選手たちはお互いの健闘を称え合えるものなのだと思う。
この試合でそのようなシーンがなかったのは、当然と言える。
厳しい言い方をすれば、これは凡戦だった。そしてそれは、
両者のボクサーとしての「ステージ」が、あまりに違いすぎた
せいではないかと思う。亀田には悪いが、いくらなんでもここまで
下手糞なボクサーだとは思わなかった。これでは噛み合うはずもない。
やはり全くまとまりのない文章になってしまったが、とにかく
内藤がベルトを守ったこと。そしてこの狂乱の日々がようやく
終わったことで、内藤ファンの僕としてはホッとしたと
いうのが正直な気持ちだ。そして内藤にも、ゆっくり休んでもらいたい。
この数ヶ月、精神的にも色々疲れたことだろう。
一方の亀田だが、まずは「まっとうな」キャリアを積むことから
やり直すべきだろう。今回の惨敗は、本人というよりも
本人を勘違いさせてしまった周囲に責任があるはずだ。
追記:一日経って、試合を見返してみた。若干堅いながらも、
内藤は本当に上手く戦っている。まさに、キャリアと
技術の差を見せつけるかのような戦い方だ。
個人的には、ボクシングにおいて最も明白に能力の優劣を
示すのは、大差判定による勝利だと思っている。「全く通用
しなかった」ということで、負けた選手に与える無力感や
落胆も、最も大きいのではないだろうか。
また、見た目のスタイルは違うが、内藤は元世界スーパー・
ウェルター級王者の輪島功一氏に似ているとも感じた。
変則であることと、柔らかすぎるほど柔らかい語り口。
北海道出身であること、遅咲きのチャンピオンであること
(輪島氏は28歳で王座獲得、30代で2度の返り咲き)も共通点だ。