人間の五感ほど信用できるようで、当てにならないものはない。
「この目で見たから間違いない」と自分の目を真実の証拠とする人がいる。
だが、このような人の目なんて熟練したマジシャンの手練の技の前にはただの節穴に過ぎない。
味覚も似たようなものだと思うのだが。
以前テレビの「料理の鉄人」という人気番組が有った。
和・洋・中華の料理の鉄人が夫々の分野で料理のプロと対決すると言う嗜好である。
審査員も沖縄出身の料理評論家岸朝子氏を初め料理には一家言を持つ人たちを揃えていた。
内容はそれなりに面白かったが、番組構成に一つだけ不満があった。
料理を造る場面を視聴者には見せたとしても、審査員には見せて欲しくなかった。
誰がどの料理を造ったかを審査員には伏せて欲しかったのだ。
番組冒頭で鉄人たちの凄腕振りを見せられたら、先入観で審査の目が狂うと懸念したからである。
その道の専門家と言えども味覚、嗅覚、視覚といった人間の感覚に頼る料理審査に先入観は障害となるだろう。
同じくグルメ自慢の芸能人が味覚を競う番組があった。
料理の鉄人にも出演したことのある中華料理人・周富徳が、料理は素人のテレビの若手スタッフと得意のチャーハンを競った。
食通を自認する芸能人の判定は、何と素人の造ったチャーハンに軍配を上げると言うオチがついた。
その後周富徳のテレビ露出度が極端に減ったのは気のせいなのか。
目隠しでテストされると、高級魚ふぐの薄切り刺身と、こんにゃくを間違えたり、醤油をかけたプリンとウニを間違えたりで、日頃グルメ自慢のタレントたちの味覚も所詮こんなもの、ということが分っただけでも面白い番組だった。
御飯に汁物をかけて食べることは好きなほうだ。
だがこの食べ方はあまり上品ではないという人もある。
なるほど、味噌汁を冷や飯にかけてみたり、御飯の食べ残しにお茶をぶっ掛けてかき込む風景はどう見ても上品とは縁遠い。
だが、何事も勿体をつければ上品になる。
気取った料理店で、食事の締めにお盆に仰々しくセットされたお茶漬けなどは店相応の価格になっていても文句を言うものはいない。
上品な店の上品な盛り付けには上品な価格と言うとこか。
高級割烹でなくとも、たかがお茶漬けに400円から600円を要求する大衆居酒屋も今時珍しくはない。
名古屋の名物といわれる「ひつまぶし」という料理がある。
ひつまぶし(櫃塗し)は、蒲焼にしたウナギの身を細かく刻んで御飯に乗せたもので、いわばうな丼の変形である。
小さな櫃(ひつ)に入れて供されるため、こう呼ばれる。
ひつまぶしの楽しみ方は、「1回で3度おいしい」食べ方にある。
1人前は小さな「お櫃」に茶碗3-4杯分入っている。
ご飯の上に刻んだ鰻が載ったまま出されるのでこれを杓子でかき混ぜる
- 最初はこれをそのまま茶碗に一杯取り、そのまま食べる。
- 次はおかわりの様に2杯目を取り、薬味をのせて食べる。薬味は、葱・山葵・海苔が基本で、ウナギによく合う3種である。
これらの味の変化を楽しみながら味わう。 - 3杯目は2杯目の様にしたものに、お茶またはだし汁をかけ、さっぱりとお茶漬けのように食べる 。
そう、簡単に言えば御飯の食べ残しにお茶をぶっ掛けて食べるのと同じ要領で、うな丼の食べ残しにだし汁をぶっ掛けて食べるのだ。
ひつまぶしのウンチクを聞かずに、いきなり目の前でうな丼の食べ残しにお茶をぶっ掛けてかき込んだら、・・・
あまりの下品さにたいていの人は顔をしかめるだろう。
だが、おひつに入れられ、専用のしゃもじや、各種薬味、そしてだし汁の急須をもったいぶってお盆にセットして供されると
何故か風雅な食べ物と思えるから不思議だ。
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