田布施座

演劇でつながる、役者で伝える。

最終章

2020-07-24 09:54:41 | 日記

さて宗観は敵の行方が知れたので還俗して花車を頼み敵討ちになります。

方丈道恩和尚と宗観(惣吉)原文のコピーです。上演では手を入れて書き直しますがいいところなので載せました。

宗「私はお願いがありますが、旦那さまには永々(なが/\)御厄介に相成りましたが、私は羽生村へ帰り度(と)うございます」
 道「ウン、どうも貴様は剃髪(ていはつ)する時も厭がったが、出家になる因縁が無いと見える、何故羽生村へ帰り度(た)いか、帰った処が親も兄弟もないし、別に知るものもない哀れな身の上じゃないか、よし帰った処が農夫(ひゃくしょう)になるだけの事、実(じつ)何(ど)うしても出家は遂(と)げられんか」
 宗「はい私は兄と姉の敵が討ちとうございます」
 道「これ、此間(こないだ)もちらりと其の事も聞いたから、音助にも宜(よ)う宗觀にいうてくれと言附けて置いたが、敵討という心は悪い心じゃ、其の念を断(き)らんければいかん、執念して飽くまでも向(むこう)を怨むには及ばん、貴様の親父を殺した新吉夫婦と母親(おふくろ)を殺したお熊比丘尼は永らく出家を遂げて改心したが、人を殺した悪事の報いは自滅するから討つがものは無い、己(おのれ)と死ぬものじゃから其の念を断つ処が出家の修行で、飽く迄も怨む執念を断(き)らんければいかん、それに貴様は幾歳(いくつ)じゃ、十二や十三の小坊主が、敵手(あいて)は剣術遣じゃないか、みす/\返り討になるは知れてある、出家を遂げれば其の返り討になる因縁を免(のが)れて、亡なられた両親やまた兄嫂(あによめ)の菩提を吊うが死なれた人の為じゃ、え」
 宗「ハイ毎度方丈様(さん)から御意見を伺っておりまするが、此の頃は毎晩/\兄(あに)さんや姉(あね)さんの夢ばかり見ております、昨夜(ゆうべ)も兄さんと姉さんが私の枕元へ来まして、新吉が敵の隠家(かくれが)を教えて知っているに、お前が斯(こ)う遣ってべん/″\と寺にいてはならん、兄さん姉さんも草葉の蔭で成仏する事が出来ないから敵を討って浮ばして呉れろと、あり/\と枕元へ来て申しました、実に夢とは思われません、してみると兄様(あにさん)や姉様(あねさん)も迷っていると思いますから、敵を討って罪作りを致しますようでございますけれども、どうか両人(ふたり)の怨みを晴して遣り度(と)うございます」
 道「それがいかん、それは貴様の念が断(き)れんからじゃ、平常(ふだん)敵を討ち度(た)い、兄さんは怨んではせんか、姉さんも怨んではせんか、と思う念が重なるに依って夢に見るのじゃ、それを仏書に睡眠と説いて有る、睡は現(うつゝ)眠はねむる汝(てまい)は睡(ねむ)ってばかり居るから夢に見るのじゃ、敵討の事ばかり思うているから、迷いの眠りじゃ、それを避ける処が仏の説かれた予(かね)ていう教えじゃ、元は何も有りはせんものじゃ、真言の阿字を考えたら宜(よ)かろう、此の寺に居て其の位な事を知らん筈は無いから諦めえ」
 宗「ハイ、何(ど)うしても諦められません、永らく御厄介に成りまして誠に相済みません、敵討を致した上は出家に成りませんでも屹度(きっと)御恩報じを致しますから、どうかお遣んなすって下さいまし、強(た)って遣って下さいませんければお寺を逃出し黙って羽生村へ帰ります」
 道「いや/\そんならば無理に止めやせん、皆因縁じゃからそれも宜かろう、やるが宜かろうが、確(しっ)かりした助太刀を頼むが宜い、先方(さき)は立派な剣術遣い、殊(こと)に同類も有ろうから」
 宗「はい親父の時に奉公をしたもので、今江戸で花車という強いお相撲さんが有りますから。其の人を頼みます積りで」
 道「若(も)し其の花車が死んでいたら何(ど)うする、人間は老少不定(ろうしょうふじょう)じゃから、昨日(きのう)死にましたといわれたら何うする、人間の命は果敢(はか)ないものじゃが、あゝ仕方がない、往(い)くなら往けじゃが、首尾好く本懐を遂げて念が断(き)れたらまた会いに来てくれ」
 と実子のような心持で親切に申しまする。
 宗「これがお別れとなるかも知れません、誠にお言葉を背きまして相済みません」

惣吉は羽生村へ帰り、長年父惣右衛門に奉公した多助爺と共に花車関を頼みに江戸へ参り、三人は五助街道藤ケ谷の明神山で花車が安田一角を取り押さえ惣吉が敵を討ちとり多助が助太刀し本懐を遂げ、惣吉は十六歳の時名主役となり、惣右衛門の名を相続いたし、多助を後見といたしました。

 

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