「旅の坊主」の道中記:常葉大学社会環境学部・小村隆史の防災・危機管理ブログ

日本唯一の防災学部はなくなっても、DIGと防災・危機管理を伝える旅は今日も続いています。

常総市の現場を見て(その2)

2015-09-23 23:50:22 | 現地調査
シルバーウィーク中の9月22日(火)に行った、常総市の水害現場とその周辺の現地踏破。
その感想をつづる2回目。

地域安全学会顧問・災害対策研究会代表の宮本英治さんと、
東京医科大学医学部看護学科の山達枝先生という、
その道のプロお二人を旅の仲間に得てのものゆえ、大変刺激的なものであった。

「この場所は、一般市民であっても、破堤をリアルな脅威として覚悟しておくべき場所か。」
先に述べたように、この一文は、今回の現地入りに当たって事前に考えていた一つの視座だった。
で、結論じみたことを言うには早すぎるとは思うが……。

国道294号(常総バイパス)を、その両側に拡がる水田を見つつ、走り抜けた感覚では、
常総市でも堤防を日々目にすることのない地域に住んでいる方々にとっては、
破堤して市域の大半が水面下に沈む、という事態を想像出来なくても無理はないだろう。
この認識から、議論をスタートさせなくてはならないだろう、と思った。
(このような状況認識の市民を是としている訳ではないので、念のため。)

旧の町名は水海道である。水海道が文字通り「水の海の道」になったとして、どこがおかしい?
人々への防災教育は、本来ならば、このような問いかけからスタートさせるべきであろう。
川の名前も鬼怒川、つまりは鬼が怒る川。災害リスクは明々白々。
もちろんそれゆえ、ハザードマップを見れば、「(堤防が)切れれば一面水面下!」。

幸いにも、それなりの頑丈さを持つ堤防があるので、その「現実」と直面することから免れていた。
それでも、設計基準以上の力(今回の場合降雨)があれば、当然、物(この場合堤防)は壊れる訳で……。

多少なりとも災害リスクについて考えたことがある人にとっては、
あるいは、地図を見慣れている者にとっては、
この地の地形的素因からして「起こるべくして起きた」だけの話であり、驚くには値しない。

しかし、このレベルの議論を、また状況認識を、
日々の暮らしの中で堤防が目に入っていない人に、どこまで期待すればよい?

防災に携わる者は、市民の防災リテラシーは未だこのレベルに留まっている、
この認識から、議論をスタートさせなくてはならないのだろうなぁ、と、改めて思った。

不幸にして、このような現実的な議論の最大の妨げとなるのが、メディアの報道だろう。
防災において、メディアは、時に最悪の敵となる。
メディアが、避難が遅れたから被害が広がった云々という、犯人捜し的な報道をしたところで、
建設的でも生産的でもなく、予防にもつながらない。

水海道という旧の地名を持つ常総市であり、全体は平坦な土地柄で、かつ、市内を大きな河川が2つも流れている。
堤防はそう簡単に切れるものではないが、それでも、一度破堤してしまえば、
それにより、市内主要部の冠水は十分あり得る、と覚悟しておくべきであろう。
市民に「そういう場所に住んでいるのです」という覚悟を求めなかった責任は誰に?

このような認識を持った上で、
特別警報を甘く見るな!
めったやたらに出たものではない以上これが出たからには何かが起こると覚悟せよ。
こういう話になるのではないか。

市民の災害リテラシー向上は、またまだ先は長い。
防災学に、また防災教育に携わっている者として、まともな情報発信をしなくては、と、
改めて我が身に言い聞かせているところである。

(10月11日 記す)


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