「旅の坊主」の道中記:常葉大学社会環境学部・小村隆史の防災・危機管理ブログ

日本唯一の防災学部はなくなっても、DIGと防災・危機管理を伝える旅は今日も続いています。

関西大学の学生提案科目「地域の防災を考える」を終えて

2015-08-04 23:30:29 | 防災学
関西の私学の雄、関関同立の一角を占める関西大学には、
学生が主体となって学びたい科目を提案し、カリキュラムを組み、
学内外から講師を呼んで講義を行う(行ってもらう)という制度があるのだそうな。
(単位を出すからには講義の質を考えなくてはならず、その部分は専任教員がサポートしているが、
学生の教育支援に専従教員を置いているというのは、さすが関大というところ。)

この話題については前にも書いたように記憶しているが、この学生提案科目で防災が取り上げられることになり、
関大社会安全学部のK先生のご紹介もあり、「旅の坊主」が総論に当たる3コマを担当することになった。
この「地域の防災を考える」科目の面白いところは、学部・学年に関係なく履修が可能ということ、
また、地域にオープンして、地域住民の方々の履修も認めているということ。
(地域の方々については部分参加OKということになっている。)

1コマ目の全体オリエンテーションとアイスブレイキングにオブザーバー参加の後、
いつもの調子で話をさせてもらった。

この種の話をする度に思うことだが……。
伊豆半島から九州東岸までの太平洋沿岸を周期的に襲ってきた災害がまたやってくる時期を迎えるに当たり、
我々防災学に携わっている者は、このことを、社会に対して、
特に2038年とも2045年とも言われるその時に社会の中核を担っている現時点での学生に、
どこまで発信出来ているのだろうか。

今日の関大学生&関大周辺の吹田市千里山地区在住の方々向け科目でも、
最初に発したのは「時代の宿命」という考え方だった。
人は生まれる時代と場所を選べないが、このような時代に生を受けたならば、
襲いかかってくる災禍の姿を、わかる限りは具体的に伝え(またわからない部分は「わからない」と率直に伝え)、
その上で、かなり具体的にイメージ出来ている巨大災害なのだから、
予想出来ている巨大災害で人生を狂わされることはないはずで、
(そもそも、これから先の働きかけ次第で、社会は変え得るのだ!)
そのことを織り込んだ人生をしっかり歩んで行ってもらいたい、と思っている。

このような話は、地域の、どこに誰が住んでいて、要支援度の高い人を誰が助けるのか、という、
目の前の(ミクロな)防災の話で精一杯の地域の方々には、なかなか受け入れてもらえる話ではない。
そのことは百も承知。
しかし、そのような、ミクロな、戦闘レベルの防災議論だけで話が済むならば誰も苦労はしない。

幸いにも、吹田市は、南海トラフ巨大地震の震源域からはある程度の距離があるので、
恐らくは震度5強、うまくすれば震度5弱の揺れで済み、かつ内陸部に位置しているため津波の心配はない。
であれば、これからの準備期間をしっかり活かせば実質被害ゼロに抑え込める、ということ。
とすれば、己の被害にどう対応するかを語るのではなく、外部に対して(例えば和歌山に)どう支援するか、という、
市町村域、府県域を超えた活動計画を事前に考えておこうではないか、という戦術レベルの話まで、
防災論議のレベルを上げてしかるべき、と思っている。

そして最終的にはマクロな防災論議まで、つまりは、この国のあるべき形と、そこへ向けた努力についても、
しっかりと議論できるような賢い市民を育てなくては、と思っているのだが……。

今回の講義では、マクロの話(20万地勢図での議論&人生に絡む話)とミクロの話(大学周辺の地域の議論)、
大別すれば2つのレベルの議論をしたが、顔付きからして、概ね理解してもらえた感があった。
さすがは関大生!手応えはあった。

3コマの講義を終え、科目提案委員会の学生3名と、ささやかな打ち上げを兼ねて軽く一杯。
(もっとも彼女らには明日以降も科目があるので、本当にささやかに、ではあったが。)
それぞれに問題意識をもった学生ゆえ、話をしていて刺激的であった。
(本学で、この種の議論が出来る学生をどうやって育てていくか、それは大きな、本当に大きな課題だ……。)

関大生のおかげで、多少の頭の整理とリフレッシュが出来たように思う。
さて、気合いを入れ直して、学期末につきものの事務作業に取り組まなくては!