ショートシナリオの館

ボケに抵抗するため、日常生活の中から思いつくままに書いています。月2回・月曜日の投稿を目指します。

雲に乗った「カエル」

2020-10-05 07:42:06 | 日記

 

大きな池に冒険好きな小さなカエルが住んでいます。彼が夢中になっている遊びは木の葉

に乗って、風に押されながらの池めぐりです。木の葉への乗り方にはこだわりがあります。

水面に長く突き出している枝を見つけ、その枝先の葉まで移動します。そして、大きく息

を吸い込み、体を大きく膨らませてから、枝先をゆっくり二度、三度と揺らして反動一番、

手足を大きく広げて、水面に浮かぶ葉っぱに向かって飛び込むのです。葉を沈まらせずに

柔らかく着地できたら成功です。体を膨らませることで空中に長く浮かんでいられて、柔ら

かく着地に成功する確率が上がると実感しています。今日も大きな葉っぱが、眼下の水面に

流れてくるのを枝先の葉の上でジッと待っています。すると、水面に大きなフアフアとした

白い塊が現れました。

 

「これは何だ。葉っぱも面白いけれど、これは葉っぱよりもフアフアとしていて、飛び移っ

 た時に優しく受け止めてくれそうだな」

 

そこで、いつもの要領で白い塊に向かって反動一番飛び込みました。しかしどうしたことで

しょう、水の中にポチャンと沈んでしまいました。なぜ着地できないのか理解できません。

その後も挑戦しましたが失敗ばかりです。水面に見える白い塊はカエルに挑戦を促すように

動かないでその場で留まっています。カエルは悔しくて仕方ありません。

 

「葉っぱの上ならちゃんと飛び移れるのに、あの白い塊の上には着地できないで、すり抜け

 てしまう。これ以上同じことを繰り返しても飛び移ることはできないな」

 

カエルは腕を組んで考え込んでしまいました。そしてふっと空を見上げると、水面に見える

白い塊と同じものが浮かんでいるのが見えました。

 

「分かったぞ、白い塊は空にある雲だ。水面に見えているのはあの白い雲の影だな。そうい

 えば枝先の葉が重なっていて、その影が水面に映っていたのを、大きな木の葉だと間違え

 てポチャンと沈んだことがあったな。あれと同じだ。」

「ということは、あの雲に乗らなければフアフアした感じを体感できないんだな。よ~し、

 この池にある一番大きい木に登って、てっぺんまでいこう。あの白い雲が繋がっているか

 もしれないぞ」

 

こうして小さなカエルは池の周りを見渡して、一番背の高い木を見つけて登り始めました。

 

「木登りは得意だから、どんなところでも大丈夫だけど、こんな高い木のてっぺんには行っ

 たことがないな。どんな場所なのだろう」

 

小さなカエルはどんどん木を登って行きました。でも、登れども、登れども、なかなかてっ

ぺんには行きつけません。でも、そんな努力が実を結ぶ時が来ました。

 

「やったぞ!青空が見えてきた。もうすぐてっぺんだ。頑張ろう。」

「てっぺんに着いたぞ。これ以上は枝がない。おかしいぞ、白い雲と繋がっていないじゃ

 ないか」

「あっ、見つけた。白い雲はもっと上だ。でもこれ以上は上に行けないぞ。どうしたらい

 いのだ。」

 

カエルは高い木のてっぺんまで登ってきましたが、そこで立ち往生してしまいました。そ

れでも何とか空に浮かぶ白い雲にたどり着く方法はないかと一生懸命考えました。

 

「そうか、僕の体が浮かべば、あの白い雲まで運んでくれるかもしれないな。どうしたら、

 浮かぶことができるようになるのかな」

「そうだ、空気をいっぱい吸って大きくお腹を膨らませ、手足を大きく広げるのだ。ここ

 は高い木のてっぺんだから、池の近くとは違って風の流れに乗れて浮き上がって、あの

 フアフアした白い雲まで連れて行ってくれるにちがいない」

「白い雲に上がれたら、これまで経験をしたことがない大冒険ができるぞ」

 

小さなカエルは大きく息を吸い込んでお腹を膨らまし始めました。そして、苦しくても、

どんなに苦しくても空気を吸い込み続けました。とうとう、カエルの執念が実を結びま

した。お腹が体以上に大きく膨らみ、ちょうど地上から吹き上げてきた風に乗って体が

フアっと浮き上り、白い雲に向かって上がり始めたのです。

 

「やったぞ、このまま上に浮かんで行けば、あそこに見える白い雲に着けるぞ。もっと

 お腹を膨らまそう」

 

風に乗ったカエルの体は、ドンドン白い雲に近づいていきます。そして、とうとう白い

雲に到着し、カエルは白い雲によじ登ることができたのです。

 

「やったぞ。本当にフアフアしている。気持ちがいいな!それに雲の上から見える景色

 は、これまでに見たことがない別世界だ。素晴らしい。池から見えていたあの高い山

 が下に見えるぞ」

「これから大冒険の始まりだ。知らないことをいっぱい見て、仲間たちに教えてあげよう」

 

小さなカエルは雲の上で大はしゃぎです。だが、残念ながら楽しい時間は瞬く間に過ぎて

いきます。時が経つとカエルはお腹が空いて家に帰りたくなりました。雲の隙間から下を

見ると自分が暮らしていた大きな池がとても小さく見えます。今いる場所はこれまでに体

験したことがない高さです。うまく池の中に飛び込める自信がありません。失敗すれば固

い地面に叩きつけられてしまいます。早く家に帰りたい気持ちと、怖くて飛び降りること

ができない恐怖が同時に襲ってきました。カエルは我慢ができずに、とうとう泣き出して

しまいました。

 

「家に帰りたいよ! お腹も空いたよ!」ケロ、ケロ、ケロ~ン!

 

カエルが流した大粒の涙が白い雲の上に落ちました。雲はカエルの涙がかかるたびに黒く

濃く変色して広がっていきました。泣くだけ泣いて、泣きはらして、とうとう涙が枯れ果

てたカエルは、急にお腹が空いてきました。食べ物はないかと見回しましたが、周りは黒

く変色した雲だけです。仕方がありません、手元の黒い雲をちぎって少しだけ口に入れま

した。たっぷりとした湿り気があって、森の香りも感じます。これならいっぱい食べれば

お腹の足しになりそうです。カエルは夢中になって食べ始めました。すると、食べるたびに、

一度は涙が枯れ果てた目から、新しいきれいな涙がとめどもなく出始め、その涙は地上に向

かって雨となって落ち始めました。

 

このお話が起源となって、雲に乗って雨を降らせた、この小さなカエルを「アマガエル」と

名付け、そして雨を降らせた黒い雲を「雨雲」と呼ぶようになったということです。

 

信じるか否かはあなたさまのお心しだいですよ。

コメント
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