ショートシナリオの館

ボケに抵抗するため、日常生活の中から思いつくままに書いています。月2回・月曜日の投稿を目指します。

青春時代の入り口に戻らせてくれた「ツリーハウス」

2019-09-15 07:39:57 | 日記


ルート沿いに見どころがないので、歩く機会が少ない散歩道があります。唯一の見どころは
あるお宅の塀越しに見える、壊れそうで、綺麗とは言えないツリーハウスです。そのツリー
ハウスの存在を知ったのはもう20年ほど前のことです。その後も時々見る機会があって、ま
だ壊れないで残っているのだなとそのたびに思っていました。最近、数年振りにそのお宅の
前を歩いていて、ツリーハウスがまだ昔の面影のまま残されていることに懐かしさを覚えま
した。東日本大震災やいくたびかここを襲ってきたであろう、台風の直撃を受けながらも残
っていたのです。
いや、いや!よく見ると、残るべくして残るように強化されています。ツリーハウスに登る
ハシゴは朽ちかけた木製から鉄製の赤いハシゴになっていました。ハウスも見えないところ
で強化されているのでしょう。そして、隣接する樹木の枝にはオープンデッキが設置されて
いました。

通常、こうした屋敷内の庭に作ったツリーハウスは、その家に世代交代がおきれば、取り壊
されていく例が多いと思うのですが、このお宅では逆に頑丈に強化されていました。20年以
上前からあるものです。このお宅に世代交代があっても不思議はないはずです。補強された
のは、おそらく子供の代の方だと思います。このツリーハウスに強い想い入れがあり、この
家を継ぐことになって、更に頑丈にして保存し、自分たちも楽しもうとしているのでしょう。
そんな風に勝手に想像していたら、なんだか住人の想いが込められた立派なツリーハウスに
見えてきました。

<ツリーハウスの想い出>
このツリーハウスを20年ほど前に初めて見つけた時に、最初に甦ったのは子供の頃、クラス
仲間のガキ3人で夢中になって組み立てに奮闘した、自分たちだけの秘密のツリーハウス基
地のことです。

私が通っていた小学校は東京都心の中心地にありました。今ではアスファルトジャングルな
街ですが、当時はまだ大きな緑地が所々に残されていました。そして、当時の子供たちが夢
中になったベストセラーは「トムソーヤの冒険」や「ロビンソン漂流記」でした。そんな子
供にとって手近で作れるツリーハウス作りは都会っ子の秘密基地として憧れだったのだと思
います。

ある日、クラス仲間が3人集ったときに告白大会となり、全員が同じマドンナが好きなこと
が分かりました。その時に競争心のようなものではなく、妙な連帯感が3人の中に生まれた
のです。3人は直ぐに夏休みになったらマドンナの家が見える場所にツリーハウスの秘密基
地を作ろうと意見がまとまりました。

現地調査をして、高台の斜面から下方の道路に向けて大きく太い枝を何本も伸ばした大木を
見つけました。これなら木に登るハシゴもいりません。簡単な板渡し程度ならすぐに3人が
座れる場所は確保できそうです。そして、最も大切なマドンナの住む家は下の方に見える幹
線道路の向こう側にあり、目線が同じ高さの高台の正面に確認できます。我々の秘密基地は
マドンナが家の窓を開けた時に見つかってはいけません。さりとて、こちら側からはマドン
ナが窓を開けた時に姿が見えなければ楽しみがありません。枝や葉っぱの位置を計算してど
の場所に板を渡せばよいのか、話し合いは熱を帯びました。あの時のドキドキ感は今でも思
い出されます。親、兄弟そして他の友達にも内緒の3人だけの秘密基地作りが始まりました。

ツリーハウス作りのノウハウはありません。あるのは冒険雑誌の挿絵だけです。最初は木の
板を枝と枝の間に渡して、自分たちがそこに座るスペース作りから始めることにしました。
そして、だんだんと挿絵にあるような箱形のツリーハウスの完成を夢見ていました。当然、
この大樹がある場所は大人たちに見つかるとヤバそうだと直感をしていました。ですから、
人が通るたびに作業を中止し、身をかがめ、そして再開しました。

昔の都会では、戸板に張られていた子供でも持てる軽さと、強度のある板がなぜかすぐに手
に入りました。私は家からのこぎりを持ち出してきました。一人は麻の紐を持ってきました。
もう一人は何だったか忘れました。こうして3人によるツリーハウス作りが始まったのです。
当時の子供は何でも手作りでしたから工具使いは慣れたものです。壊れた戸板を解体した一
枚板を数枚束ねて、3人で汗をふきふき秘密基地へ運びました。そして、最初の床面作りが
始まったのです。傾かず動かないように、板と印しをした太い枝に麻の紐で結び付けたと思
います。

大人になった今ならツリーハウスキットを購入して素敵なものを作ったのでしょうが、知識
もお金もないガキのできることは、冒険物語の主人公になり切れることへの喜びだけです。
床にする板を傾かないように固定することから大苦労でした。枝の高さも違うので、段違い
の床になったと思います。私はのこぎりで奮闘しました。3人で初めて座れた瞬間は歓声を
あげたと思います。この時にはもうマドンナのことは忘れていましたね。

散歩道で見つけた塀の中のツリーハウスは、青春時代の入り口に立ったばかりの年齢だった、
当時の私の記憶を呼び起こしてくれました。

ツリーハウスはその後どうなったかですか?
ツリーハウスは頭上の枝を紐で絡めて引っ張り、目の前の枝に結び付けて、屋根の下地作り
の段階に入っていました。作り始めて3日目ぐらいだったと思いますが、その日も勇んで基
地づくりに行ったのです。しかし、その場所に見知らぬ大人とお巡りさんが立っていました。
「ここは立ち入り禁止だ!」「危険だ!」「先生に言うぞ!」(多分・・・)とこってりと
絞られて、あえなく解体させられてしまいました。最後の言葉が一番の決め手になったと思
います。もし、先生の口からマドンナが知ることになったら、もう教室には入れなくなりま
すからね・・・。(これ本当・・・)子供時代、最後の夏休みの想い出です。

ツリーハウスの秘密基地を作った場所は現在「ホテルニューオータニ」になっています。
「オイ、オイ!俺たちが作ろうとした秘密基地よりも、随分とでっかくて立派なものを建て
てくれたじゃないか!」と、今でもこのホテルを見るとつぶやいてしまいます。
コメント
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