ショートシナリオの館

ボケに抵抗するため、日常生活の中から思いつくままに書いています。月2回・月曜日の投稿を目指します。

ヘッドライトに照らされた動物たち

2014-06-23 08:32:37 | 日記





夫:八千穂レイクまではあと少しだ。まだ、夜中の3時過ぎだけど、6月は日の出が

   早いから、すぐに明るくなるよ。

妻:日本一美しいと言われる白樺林とレンゲツツジの競演を楽しみにしてね。4年前

   に来た時は本当にうっとりしたわ。だってあんなにたくさんの白樺が群生してい

   るのを見たのは初めてだったから。それだけじゃなくて、オレンジ色のレンゲツツ

   ジが真っ盛りで、「どちらが主役かしら?」って、しばらく考え込みながら写真を

   撮ったのよ。あなたもきっと感激するはずよ。だけど、クネクネ道が続いているか

   ら、気を抜かないで運転しなくちゃならないわね。アラッ!タヌキが車の前を横切

   ったわ。ポン吉かしら?

夫:エッ、ほんと?僕には見えなかったよ。ポン吉がいたということは、ウサギのミミや、

   キツネのコン太にも会えるかもしれないな。僕が周りを注意して見ているから、君は

   運転に専念してね。


一方、動物村の仲良し3人組は冬を無事に乗り切り、精神的にも肉体的にもたくましくな

っていました。行動範囲は大きく広がり、動物村の外へ出かけることも珍しくありません。


ポン吉:ワーッ!驚いた。僕の通り道に突然現れるなんて、失礼なやつだな。危ないじゃ

      ないか。それにしても、今の光は眩しかったな~。こんなに暗いのに、どうして

      長老は僕たちを呼び出したんだろう?ともかく急いでいくぞ!


夫婦の車のヘッドライトが次に照らし出したのはシカです。夫婦は車中で大騒ぎ。


妻:タヌキやシカがヘッドライトの前に出現するなんて、一体どういうこと?動物たちは夜

   中に動き回っているのね。お邪魔しちゃって、申し訳ないわ。

夫:僕たちは、しょっちゅう夜間走行をするけど、1本の山道で、こんなにいろんな動物た

   ちに遭遇するのは初めてだね。

妻:さっき、1頭のシカを見たあと、すぐにもう1頭がいたでしょ。あれは夫婦ね、きっと。

   少し走ったら、もう1頭とさらに2頭が一緒にいたわね。群れで行動しているのかし

   ら?しばらく立ち止まって、こちらを見ているシカもいたわよ。車を停めて写真を撮

   ろうとしたら、林の中に逃げ込んじゃったけど。

夫:残念だったね。

妻:私が助手席にいたなら絶対に写していたのに、ア~、悔しい。

夫:まさか、こんなに何回も車の前に動物が出てくるとは思わなかったからね。心の準

   備をしていなかったんだ。動物たちを目撃したことで我慢してよ。


八千穂レイクで日の出を見て、周辺の白樺林とレンゲツツジのコラボレーションを堪能し

た夫婦は午前8時前には、もう次の目的地に向かって車を走らせていました。今度は夫

が運転です。山道を下っていると、草むらから犬のような動物が出てきました。


妻:アッ、何か出てきた。今度は何かな?写さなくっちゃ!バシャッ、バシャッ。

   あ~、どんどん向こうへ行っちゃった。遠かったけど、なんとか写せたみたいよ。

   動いているからブレたけどね。シッポがずいぶん太かったわ。キツネじゃないか

   しら?もしかしたら、コン太?それなら、残りはウサギのミミだけね。

夫:さすがにそこまで上手くはいかないだろうね。ミミの代わりにシカたちに会えたこ

   とで良しとしようよ。今回は超ラッキーなドライブだな。

妻:タヌキとシカを撮影できていたら、最高なんだけどな~。


ところで動物村では、いつものメンバーが続々と集合場所にやって来ています。

みんな、興奮気味です。仲良し3人組の友達で、走るのが得意なシカのカーシ君も

います。


ポン吉:強い光に照らされちゃったよ。道を渡ろうとしたら急に近づいてきたモノがい

      たから、僕は全速力で駆け抜けたけど、光が体に着いちゃったような気が

      するな。

ミミ :私はポン吉さんの後ろにいて急に光が近づくのを見たから、道を渡るのをやめ

     て、とっさに身を隠したわ。

カーシ:僕は近づいてくる光の正体が知りたかったので、佇んで見ていたんだ。だけど、

      すごく眩しかったし、人間が現れたから大急ぎで林の中に逃げ込んだよ。

コン太:僕は寝過ごして、遅刻しちゃった。ゴメンネ。長老の指示は「人間が造った道を

      横切って、ここに集まれ」ということだったけど、一体何事かな?

長老 :みんな、無事に集まったな。よかった、よかった。君たちは厳しい冬を越して逞し

      くなり、行動範囲が広がっている。そこで人間社会のことを学んでもらおうと思

      って、訓練をしたんじゃ。みんなが見た強烈な光は人間が作ったもので、闇夜

      を明るく照らすものなんだ。人間は暗闇ではモノを見ることができないから、

      次々に自分たちに便利なモノを創り出すのじゃ。3人組には以前、教えたこと

      があるね。

ミミ :あんなに強い光を浴びても、ホントに私たちの身体に害は無いの?

長老 :無いよ。だけど、立ち止まって見るのはやめなさい。光の発生源は車というもの

     で、これにぶつかると死んでしまうぞ。今日はこのことを教えたかったのじゃ。

     我々が行動するには夜の方が人間に見つからなくて安全だが、夜には光を発

     する車というものに十分注意する必要がある。今日の体験でよくわかったな。

     暗い時だけではなく、明るい時でも人間の造った道を横切る時には特に気を付

     けるのじゃ。よいな。

全員 :ハ~イ、分かりました。


行動範囲がどんどん広がる動物村の子供たちは、長老から少しずつ人間界のことを学

び始めています。今日は車のライトや、車そのものに対応するための勉強会だったので

す。

車に乗った人間の夫婦は動物村の勉強会のことなど露知らず、メルヘン街道を麦草峠

方面に向かって駆け抜けて行きました。
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