スーパーでは1袋(200g)30円前後で販売されることが多い「もやし」ですが、他の野菜は
200円、300円が当たり前のなかで、この価格は圧倒的に安いですよね。もやしの価格は
1990年代までは、一般的に40円ほどで販売されていたのです。それが、スーパーの目玉商品
になって2016年ごろは15円前後(9円の時もありました)の時期もあり、その期間も長かっ
たのです。さすがに、生産コストの値上がり、労働賃金の上昇、原料である緑豆の種の高騰
で、現在の価格に戻っていますが、それでもまだ40円には至っていません。日本のもやしの
安さは、海外と比べるとより顕著です。アメリカやヨーロッパでは、通常100円ほどで販売
されているのです。このもやし価格の下落に伴う収益性の悪化によって、60年前には1000社
ほどあった、もやし生産業者が、10年前は230社、そして、今では110社にまで減っています。
生き残っているもやし専業企業も、カット野菜の製造などの副業をしています。もやし価格
の下落の要因は長引くデフレ経済の環境にあります。1円でも安くという消費者ニーズに応
えるために、ターゲットにされたのが、「もやし」なのです。確かにターゲットになる要素
はあるのです。
もやしは「太陽光がいらない」「土がいらない」「出荷までの期間が10日ほど圧倒的に短い」
「天候に左右されない」「24時間操業できる」という環境で栽培できるのです。一方、スー
パー側としても、計画的な大量生産が年間を通じてでき、安定供給される商品であることか
ら、目玉商品にしやすい、これも価格低下の要因となっています。もやし生産業者は厳しい
環境下にありますが、その中で、茨城県のもやし生産量は全国4位です。しかし、産出額は
3位です。これは茨城県産のもやしは品質がよく、単価が高く取引きされているからです。
今回は茨城産の「もやし」を紹介します。
<もやしって何の野菜?>
もやしを漢字で書けば「萌やし」。正式な植物の種類ではなく、豆や野菜の種子を、光を
遮って水だけで発芽(萌え)させた若い芽のことです。畑に種をまくのではなく、暗所で
発芽させて成長させているので、植物の芽なのに色が白いのです。最も一般的な豆もやし
は、「緑豆(グリーンマッペ)」や「ブラックマッペ」を発芽させたもの。グリーンマッ
ペ、ブラックマッペは、アズキの近縁種です。もやしは基本的に国産ですが、原料豆のほ
とんどは中国やインドなどからの輸入品です。大豆を発芽させた大豆もやしもあります。
「カイワレ」はハツカダイコンのもやし。ほかにも、色々な豆類や野菜の種子を発芽させ
たもやしが出回っています。ピーナッツもやし、ニンニクもやし、アルファルファもやし、
ブロッコリーもやし、ソバもやし、等々。これらは「もやし」と呼ばす、ちょっとしゃれ
て「スプラウト(sprout)」と呼ぶことが多いです。英語の「sprout」は、たんに植物の
「芽」「若芽」「若枝」のことです。「若者」の意味もあります。
<もやしの種類>
良く知られているもやしには、大きく分けて3種類あります。
(1)緑豆もやし:緑豆の種子を発芽させたもやしで、国内では85%ほどを占めます。水
分が多く、シャキシャキとした食感が特徴です。炒め物やサラダなどによく使われ
ます。
(2)ブラックマッペもやし:ブラックマッペ(黒緑豆)の種子を発芽させたもやしで、
緑豆もやしより細く硬めです。青臭さが少なく、甘みがあります。おひたしやお味
噌汁などによく使われます。関西方面で人気です。5%のシェアです。
(3)大豆もやし:大豆の種子を発芽させたもやしで、豆がついているのが特徴です。歯
ごたえがあり、栄養価が高いです。韓国料理のナムルやチゲなどによく使われます。
大豆もやしは原料にコストがかかるため、飲食店などへの出荷がメインで、一般に
流通することはまれです。10%ほどのシェアで、値段は2倍ほど高いです。
<もやしの生産量ランキング>
農林水産省の「令和3年品目別産出額について」によると、全国のもやしの産出額は1,026
億円です。全国第1位は北海道で341億円(33.2%)、第2位は鹿児島県で119億円(11.6%)、
第3位は茨城県で22億円(2.1%)でした。
一方、 もやし生産者協会の「もやしの統計」によると、令和元年度(2019年度)の茨城県
のもやしの生産量は1,900トンで、全国第4位でした。全国第1位は北海道で28,000トン、全
国第2位は鹿児島県で10,000トン、全国第3位は埼玉県で2,000トンでした。茨城県のもやし
は品質が良く、高価格で取引されているのだと思います。もやしの生産量はこの50年間、
右肩上がりで生産量が2倍以上に増えています。そして、この30年間に重量ベースでほうれ
ん草より多く生産・消費されるようになりました。(農林水産省)
<もやしが安く生産できる理由>
① 太陽光がいらない:もやしは太陽光を必要としないため、天気や季節の影響を受ける
ことのない屋内での栽培が可能です。場所や環境に依存しない分、生産にかかる
コストを大幅に抑えられているのです。現在、流通しているもやしは、太陽光を
完全にシャットアウトされ、理想的な温度と湿度が保たれた環境で計画的に生産
されています。
② 土がいらない:もやしは「萌やし」で、つまり豆が発芽した状態、ということを示し
ているのですが、もやしは豆の栄養分を使って発芽するため、肥料がなくても水
さえあれば育ちます。普段我々が目にするもやしは土がないところで栽培されて
おり、肥料代も不要なため、他の野菜と比べてその分コストが抑えられています。
③ 出荷までの期間が短い:もやしは発芽してから8日程度で出荷されます。つまり、太
陽光も土もいらない環境でわずか一週間すごした後、スーパーなどに並び食卓に上
がる、という驚異のスピード感を持った野菜なのです。例えば、ほうれん草の場合、
種まきから収穫まで夏は25日から30日、冬はおよそ100日、レタスの場合はおよそ
60日かかるので、一週間という時間がどれほど短いのかよく分かるかと思います。
また計画的な大量生産が可能なので年間を通じて安定供給することもでき、これも
コストカットの要因となっています。
④ もやしの低価格は企業努力の成果:もやしの生産技術が上がり、また年中無休24時間
体制での管理体制も比較的容易となり、コスト削減が可能になったという背景も
ありますが、もやしの価格はなんと40年前と比較しても下がっており、10年前か
ら比較しても1割ほど安くなっています。これは異常ですよね。生産者のたゆまぬ
企業努力の賜物なのです。
<もやしの豆知識>」
1.11月11日はもやしの日です。
決まった旬が無いもやし。では、なぜもやしの日は11月11日なのでしょう?もやし
の日はもやし生産協会により、平成24年に制定されました。その理由は、数字の1の
形がもやしに似ているから。1111…と1を並べるともやしのように見えてきませんか?
2.もやしは一種類ではない
先に記しましたが、もやし、もやし、と一括りにしてしまいがちですが、実はもやし
というのは特定の植物を意味する単語ではありません。もやしというのは発芽した状
態であることを意味しますから、植物の種類に関係なく、まだそれぞれの植物の個性
が発揮されていない状態であるという、大胆なグループ分けの名称なのです。スパゲ
ティもペンネもマカロニもリングイネもパスタという総称でまとめられるのと同じよ
うなイメージかもしれません。
3.おいしく早く、家計を助ける
これも繰り返しになりますが、もやしが安く販売できる最も大きな理由は、出荷する
までの時間がとても短いこと。その時間はなんと、10日足らずなのです!一般的に、
野菜の栽培期間は3~4カ月程度はかかるものです。比較的栽培期間の短い葉物野菜で
も、出荷までに1~2カ月は必要なことを考えると、もやしの速度は驚異的なスピード
といえます。ほかの野菜が育つまでの間に、何回も収穫できる…これがもやしの強み
であり、安く提供できる最大の秘密なのですね。また、もやしのほとんどが工場生産
で、生産量が季節や天候に左右されないことも、価格を支える要素です。購入する側
としては安定して安く購入できるのはうれしいですよね。
4.時間が経つのはNG
もやしはいつでも購入できますが、ひとつ注意しなければならない点があります。そ
れは、「傷みやすい野菜」であること。多くのもやしはパッケージに消費期限が記載
されていますが、これはほかの野菜ではあまり見られず、とても珍しいですよね。新
芽であるもやしはまだ弱く、デリケートな状態。さらに、成長しようと絶えず呼吸を
続けているので、放っておくと袋が膨らみ、水滴がつきます。このように、自分が出
した水分で傷んでしまうのですね。そのため、もやしは購入したらその日のうちに使
い切るぐらいのつもりでよいでしょう。もやしには抗酸化作用のあるビタミンCや貧
血を予防する葉酸などが含まれますが、これらは時間が経つと失われてしまいやすい
ので、栄養の面からみても新鮮なうちに食べた方がよいです。当日に使い切るのが難
しい場合はポリ袋などに移し、チルド室(※野菜室は温度が高いので、もやしの保存
には不向きです)に入れれば2~3日ほど保存できます。
5.もやしは農産物ではない!?
もやしは太陽光や土が必要なく、その特性から工場で計画的に大量生産されるため、
農産物、というよりも工業生産物に近く、工業型農業というのに分類されるようで
す。つまりアナログな農業というよりもデジタルに限りなく近く、計画的な大量生産
が可能ということは生産量も制御可能なため、作り過ぎなどのリスクもない、という
ことも価格の安さに反映されているようです。
6.もやしの栄養素と効果
原料豆の栄養素だけで育ちます。この栄養素から生育に必要な栄養素を作りながら成
長しますので、豊富な栄養素が含まれているのです。
①食物繊維:便通を整えて便秘を予防したり、脂質や糖質、ナトリウムの吸収を抑えます。
② たんぱく質:筋肉や皮膚、毛髪などの体を構成したり、ホルモンや抗体などの物質の
材料となります。
③ビタミンB1:糖質をエネルギーに変えるために必要で、疲労回復や神経系の健康に役
立ちます。
④ビタミンB2:脂質やたんぱく質の代謝に関わり、皮膚や粘膜の健康に必要です。
⑤ナイアシン:エネルギー代謝に必要で、皮膚や粘膜、神経系の健康に役立ちます。
⑥葉酸:赤血球の生成に必要で、貧血の予防や妊娠中の胎児の発育に重要です。
⑦パントテン酸:エネルギー代謝に必要で、ストレスへの耐性や免疫力を高めます。
⑧ビオチン:エネルギー代謝に必要で、皮膚や毛髪、爪の健康に役立ちます。
⑨ビタミンC:コラーゲンの生成に必要で、肌や骨、歯などの健康に役立ちます。また、
抗酸化作用や免疫力向上なども期待できます。
⑩カリウム:体内の水分バランスを調整し、利尿作用や血圧降下作用があります。
⑪鉄:赤血球の成分であるヘモグロビンの生成に必要で、貧血の予防や改善に効果があ
ります。
⑫亜鉛:味覚や嗅覚を正常に保つために必要で、免疫力向上や傷の治癒などにも効果が
あります。
⑬銅:赤血球の生成や鉄分の吸収を助ける働きがあります。
もやしは水分が多くカロリーが低いため、ダイエット中でも気軽に食べられる野菜です。
また、さまざまな料理に合わせて使うことができるので、食卓に彩りを添えることがで
きます。ぜひもやしを食べて栄養バランスを整えましょう。
7.もやしのたんぱく質はどこにある?
たんぱく質は豆の部分に含まれています。大豆もやしは100gあたり3.7gのたんぱく質
が入っており、牛乳100ml(たんぱく質3.4g)とほぼ同じくらいの量です。
8.ビタミンCが豊富:緑豆もやし1パック(200g)には16mgのビタミンCが含まれており、
レモン約1個分の果汁に相当します。
9.もやしは水分を多く含む野菜なので、冷凍保存するときは購入した時の袋のまま保存す
るのがおすすめです。また、もやしを使う前に水で洗う必要はありません。
10.もやしを生のまま食べるのはNG!もやしは生ではなく、加熱してから食べるべき食材
です。生のままだと料理が食べにくい仕上がりになったり、最悪の場合、食中毒の
危険性もあるからです。でも、腐ってしまったもやしはすでに雑菌が増えているお
それがあり、加熱しても食べることはできません。
11.もやしの食べ過ぎはNG!
もやしを食べ過ぎると下痢や腹痛になりやすいです。ダイエットとして、過剰摂取
は戒めましょう。栄養バランスも崩れます。1日に1袋(200g)が上限です。
<茨城県もやしの生産現場>
(1)栽培
そろって発芽するように、よく充実した種子を入手します。発芽適温は種類によって
も異なりますが、いずれも25 - 30度とかなり高温であるため、低温期に栽培する場合
は保温や過湿が必要です。また、発芽には多くの酸素を必要で、酸素不足になると色
がきれいにならなかったり、悪臭がするなどのトラブルの原因となります。種子がず
っと水に浸かっていると、藻類が発生したり、病害に侵されたりしやすいため、水切
りや水洗いを入念に行うことが成否の鍵となるそうです。
(2)発芽
原料の豆の種類はブラックマッペ、緑豆、大豆の三種です。いずれの原料豆も不純物
や害虫に食われたもの、欠けたもの、病気のものなどを取り除いて選別し、水に浸し
てみたときに浮き上がった充実が悪いものを取り除きます。 その後、豆を流水でよく
洗い、豆の量の10倍量の水に一晩漬けておく、浸種吸水を行います。容器の口をガー
ゼなどで覆い水を切ったら、流水で種子をすすぎ水気を切ります。このとき湯に15分
ほど浸漬して真菌などを殺菌する場合もあります。水気を切った豆を通気性のよい薄
暗い部屋(軟白栽培)に静かに置き、1日2回ほど丁寧に新しい水ですすぐを繰り返す
と、7日 - 10日程度で発芽します。胚軸が5 cm以上伸びたら収穫できるので、新鮮な
うちに収穫します。モヤシの根を太く育成するため、しばしばエチレンを添加するな
どの工夫がなされています。
茨城県で一番大きいもやし生産会社は、イバラキ食品株式会社です。この会社は、茨城県石
岡市に工場を構え、もやしやカット野菜の製造・販売を行っています。この会社のもやしは、
厳選した原料、清らかな水、コンピュータ制御の育成室、最新の洗浄ラインなどにこだわり、
太くてシャキシャキ感があります。また、関東近県の各地域のスーパーマーケットや店舗で
パッケージ製品として販売されています。他のもやし生産会社としては、旭物産小美玉工場
があります。こちらは茨城県小美玉市にある工場で、1日40トン・20万パックのもやしを製
造しています。
是非、高品質な茨城県産「もやし」をご賞味あれ!