鼠喰いのひとりごと

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「夏と花火と私の死体」 乙一

2006-01-16 10:17:36 | 本(小説)

「夏と花火と私の死体」 乙一
2000年 集英社文庫

***

最初作者名を「おとはじめ」と読むのだとずっと思い込んでいた「おついち」さんです。
この作品は乙一氏のデビュー作。
12年前、1996年にジャンプ小説・ノンフィクション大賞を受賞しました。
当時の年齢は、なんと17歳。文章を見る限り、全然そうとは思えません。

前出の山田悠介氏も、また、若くして文藝賞に輝いた綿谷りささんも、
発想は斬新だったけれど、文章そのものは非常に若い印象を受けました。
しかし、乙一さんの文章は、とても「安定」している。
こう言っちゃあナニかもしれませんが、30代の人が書いてもおかしくないって気がします。

===

9歳の夏。「私」は死んだ。
親友の少女に突き落とされて。

自分の犯した罪に怯える少女とその兄は、「私」の死体を隠すため様々な手段を凝らし、
危険な賭けを繰り返す。
次々と隠し場所を移動される「私」を見つめる、殺された少女自身が語る、
恐るべき子供たちの、夏の犯行。
果たしてその結末は。

===

夏とか花火とか子供とか、とりあえず私の好きなテーマ詰め合わせという感じなので(笑)
最初から引っ張り込まれるように読んでしまいました。
30代の文章でもおかしくないこの作品に「若さ」があるとしたら、
「子供の残酷さ」をはっきり打ち出したところじゃないかと思います。

作中の子供たち、倫理で動いてないんですよね。
押したら落ちた。落ちたら死んだ。見つかったら困るから隠す。見つかりそうだから場所を移す。その場その場で、条件反射のように反応しているだけで、全然人間っぽくありません。
ひとの形をしていても、まだ人間ではない「子供」という種族の生態(笑)が妙にリアルで、
読みつつ、「ああ、この人はまだ、このころの気持ちを忘れていないんだ。やはり若いんだな」
と思ったのです。

ひとは長く生きれば生きるほど、余計なモノを身につけてくる。
たとえばそれは、常識的な考えであったり、一般的な善悪の概念だったり、
ヒューマニズムだったりするわけですが、そういうのが作品にも影響するような気がしてます。
普通の小説であれば、むしろ作品に深みや厚みを持たせるかもしれないそれは、
恐怖を目的とする「ホラー」というジャンルでは、使いどころが難しい、とも。
起こる事柄が人間的であればあるほど、あまり怖くは感じない。
むしろ、登場人物が非人間的であればあるほど。
起こる出来事が非現実的であればあるほど、恐怖感が増すような気がします。


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