蒸し暑い。寝苦しい。
しかし、女房はぐっすり眠っている。
俺は起きて、何かないかと戸棚を探した。
奥の方から忘れられたような缶詰が出てきた。
トマトの水煮だ。
賞味期限は4か月も過ぎている。
しかし、食べられないことはないだろう。
俺はネットでトマト缶のレシピを探した。
「サバ水煮缶とトマト水煮缶でブイヤベース」という料理を見つけた。
幸いサバ缶もある。
明日の夜は俺が「ブイヤベース」とかいう西洋料理を作ることにした。
レシピをプリントしてから、ベッドに入った。
女房が夕食の支度をしているところへ俺は割り込んだ。
俺の料理の始まりだ。
俺はまず、鍋にサバ缶の汁だけを入れた。
スライスした玉ねぎ、トマト缶、塩、水を入れて煮詰める。
玉ねぎが煮えたところに、サバの身とカレールーを加えて出来上がりだ。
意外と簡単に出来た。
俺は女房に俺の作った、西洋料理の名前を教えようとしたが、思いだせない。
レシピを見ながら「ブ・イ・ヤ・ベース」と言いながら教えてやった。
しかし、女房は知っていたよ。
ただ、自分では作ったことがないそうだ。
俺はブイヤベースをテーブルに並べた。
このときはすでに、女房のいつもの料理が並べてあった。
ご飯に豆腐の味噌汁、青菜のおひたしと魚の煮物だ。
これにブイヤベースだと組み合わせが悪い。
ブイヤベースにはパンだけがあればよいようだ。
食べてみた。
俺はおいしいと思うが、女房の口には合わないようだ。
女房はコショウをたっぷり振りかけながら、まずそうに食べている。